イギリス発祥の現在のスーツがヨーロッパ、アメリカに普及したのは19世紀中葉のこと。スーツの普及は、近代資本主義社会の発展、市民社会の成熟と手を携えていた。
一見、外見の差異を小さくしてしまう、制服のようなスーツのシステムは、男性が、それぞれの出自や経済的背景に煩わされることなく仕事や社交を円滑に進めるための鎧として最適だった。
また、スーツは「男は稼ぎ、女がその稼ぎによって着飾る」という当時の性役割をわかりやすく示す象徴でもあった。男性のスーツが暗色に地味に収束していくに伴い、女性のドレスが華やかになっていったのだ。どちらの服も、男女それぞれの心身両面において、いくばくかの窮屈を強いていたのではないだろうか。
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