連載●子供のスポーツ新常識
子供の体力低下が嘆かれる一方で、若き天才アスリートも多く誕生している昨今。子供とスポーツの関係性は気になるトピックだ。そこで、ジュニア世代の指導者を育成する活動を行っている、桐蔭横浜大学教授の桜井智野風先生に、子供の才能や夢を賢くサポートしていくための “新常識”を紹介してもらう。
一般的にはあまり知られていないかもしれませんが、スポーツシューズの開発において、日本の技術レベルは世界トップクラスにあります。
“厚底”のランニングシューズを筆頭に、今や世界のスポーツシューズ業界を席巻しているあの海外メーカーも、創業当初は日本のスポーツメーカーの代理店であり、その後自社でシューズ開発するようになってからも、日本のシューズを大いに参考にしていた、というのは有名な話です。
このように、日本のスポーツシューズに関する技術は極めて高い。その一方で、子供たちが、これほど高性能シューズを履いている国は、世界的に見ても稀かもしれません。裏を返せば、体や運動神経の成長がさかんな時期に、親がしっかりと考えてシューズを選んであげなければならない、といえます。
軽量シューズが子供の安全を脅かす理由
最近のスポーツシューズは、バスケットボールシューズで片足300g、サッカースパイクで150g、マラソンシューズでは100g(すべて27.0cmの場合)を切る時代となってきました。その最も大きな要因は、シューズを形成するさまざまな素材を軽量化する技術の進歩によるものですが、ここで注意が必要です。
軽いシューズは、限界まで必要のないもの削ぎ落としていますから、足を守ってくれる補強や機能は限りなく少ない、ということを忘れてはいけません。成長期にある子供が、大人のアスリートの真似をして超軽量シューズを履くのは避けるべきでしょう。スポーツに限らず、野山で遊ぶ際に、軽量シューズで走ると足への負担が大きくなり、怪我を引き起こす可能性が増すことも報告されています。
心理学的な実験によると、ヒトがふたつの重さの違いを認識できるのは、初めに与えられた重さの“40分の1”の量が変化した場合、といわれています。つまり、200gのシューズを履いていた人は、195gのシューズに履き換えたときに「軽い」と感じるわけです。そして、この感覚の鋭さこそ、シューズの軽量化競争に拍車をかけているといえます。
しかし、子供たちがこの“違い”を認識できるかは疑問です。長い時間トレーニングを積んできた大人のアスリートなら、競技力アップのためにシューズの軽さを味方にすることは自然なことだと思いますが、体の成長や体力、技術がこれから進化していくジュニア期に、危険と隣り合わせの“軽さ”を与える必要はないと私は考えます。さまざまなシューズがあるなかで、自分に合った重量を選ばせることが重要です。
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