看板娘、登場
こちらは店長の一海さん(26歳)。「ひとみ」と読む。いい名前じゃないですか。
「でも、常連さんは『もさみ』と呼びますね。この会社に入ってから駒澤大学にある『ビストロコンフル』という本店で働き始めたんですが、仕事ぶりがあまりにも“もさい”ので社長が名付けたあだ名が定着しました」。
しかし、着実に仕事と接客術を身につけ、晴れて2号店の店長に抜擢された。
一海さんの出身を聞くと秋田県の男鹿半島。フランス語かと思った「Et Ca Qu’est(えさけ)」は秋田弁で「うちにおいでよ」という意味だった。そうなれば、ナマハゲの話を聞くしかない。
「本気で怖いから、男鹿の子供たちにとってはトラウマの対象ですよ。抵抗したお兄ちゃんがゴミ袋に詰められたときは、『あの強いお兄ちゃんが……』と頭が真っ白になりました」。
面白かったのは、ナマハゲ協会から「今年は入っていいですか?」という打診の電話が来るということ。
「赤ちゃんが生まれたばかりとか、よぼよぼの犬がいるような家庭は断りますね。あと、怖さの度合いも選べるんです。うちは最強レベルだったのでなおさら怖かったんでしょうね」。
ナマハゲに怯える幼少期を過ごした一海さんは、中学と高校ではバスケ三昧の日々を送る。高校卒業後に上京し、製菓調理専門学校に入学した。
その後、三宿のイタリアンや渋谷のビストロを経て、現在の会社に転職。“もさみ”としてかわいがられ、立派に店を任されるようになった今でも、あだ名だけは残っている。
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