先入観を見事に打ち破った
ここまで読んで、おわかりいただけただろうか。三三は、筆者の問いかけに対して、ほとんど否定形で答えを返したのだ。
「師匠小三治直伝の正統派?」に対しては「師匠から一度も噺を教えてもらったことはありません」、「立て板に水ですね」には「そう見せてるだけ」、「独特の枕ですね」「長くやったらボロが出る」。
決して三三がへそまがりなわけでも、不実なわけでもない。正直に答えていただいたのだ。しかし筆者の「予備知識」「先入観」は見事に破壊されるのだ。
「冷静にいろんな物事を見ているようでいながら、実は状況判断とか自己分析とかはできないですよね。こうやってしゃべってるとほら、賢そうじゃないですか。私、割と(笑)。自分でも勘違いしていたんですけど。子どものころというか割と最近まで。俺、賢いんじゃないかと思っていたんですけど、そうでもないことがよくわかりはじめた(笑)。
小三治みたいになりたいと思って噺家になったんだけど、やる側になった瞬間、すぐ無理だってわかったからうちの師匠のとおりにやろうとかは思わなかったし、そのあとは、なんだろう、あまりそういうことは考えなくなっちゃった」。
すでに実力派として人気を博する柳家三三だが、ここから芸境が変化していくのではないだろうか。これまでかっちり演じていた噺に少しずつ緩みが出て、その緩みが得もいわれぬ味わいになるのではないか、そんな予感を抱かせる落語家である。
■柳家三三 プロフィール
1974年7月4日、神奈川県小田原市生まれ。1993年、十代目柳家小三治に入門し、前座名小多けを名乗る。1996年5月、二つ目に昇格し三三、2006年真打昇進。
平成11年(1999)2月 第9回北とぴあ 若手落語競演会「大賞」
平成14年(2002)5月 平成13年度にっかん飛切落語会 若手落語家「努力賞」
平成15年(2003)5月 平成14年度にっかん飛切落語会 若手落語家「奨励賞」
平成16年(2004)5月 平成15年度にっかん飛切落語会 若手落語家「大賞」
平成17年(2005)3月 平成16年度花形演芸大賞「銀賞」
平成17年(2005)5月 平成16年度にっかん飛切落語会 若手落語家「奨励賞」
平成18年(2006)5月 平成17年度にっかん飛切落語会 若手落語家「奨励賞」
平成18年(2006)5月 林家彦六賞
平成19年(2007)12月 平成19年度(第62回)文化庁芸術祭 大衆芸能部門「新人賞」
平成20年(2008)3月 平成19年度「彩の国落語大賞」
平成21年(2009)4月 平成20年度「花形演芸大賞・金賞」
平成21年(2009)10月 第58回 神奈川文化賞未来賞<芸能>部門
平成22年(2010)4月 平成21年度「花形演芸大賞・大賞」
平成28年(2016)3月 平成27年度(第66回)文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞(大衆芸能部門)
〇出囃子「京鹿子娘道成寺」田植え歌の一節
〇持ちネタ
「高座に掛けたのは300くらいです。いつでも高座にかけられるのは、どうでしょうね。15、20あるかな。」(本人談)
〇公演予定 2020年3月以降の主なホール落語
・3/4(水) TVh落語 「柳家三三 独演会」道新ホール (北海道)
・3/6(金) かめあり亭 第47弾! 柳家小三治 柳家三三 親子会 ~江戸落語の粋を聴く~ かめありリリオホール (東京都)
・3/7(土) 柳家三三 独演会 「春」 有楽町よみうりホール (東京都)
・3/12(木) J亭スピンオフ企画11 「白酒・三三・一之輔 スペシャル三人会」日経ホール(東京都)
・3/13(金) 月例 三三独演 イイノホール(東京都)
・3/20(金) 柳家花緑 柳家三三 二人会 リンクモア平安閣市民ホール (青森県)
・3/24(火) 第94回 三三・左龍の会 千代田区立内幸町ホール (東京都)
・3/30(月) 柳家三三 独演会 イムズホール (福岡県)
※各イベントの詳細については主催者にお問い合わせください。
広尾 晃:ライター
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