ハワイ留学後、アパレルの世界へ
「アメリカのカルチャーが好きだった僕は英語が話せるようになりたいと思い、大学を出るとハワイに語学留学しました。ハワイを選んだのはサーフィンもやりたかったから」。
ハワイでの上諸さんは生活費を稼ぐべく、そうそうにヴィンテージ専門店「テーラーズ・ヴィンテージ」の仕事を手伝うようになった。
「古着はもともと好きな世界でしたが、このアルバイトで完全に開眼しました。たとえばジーパンはその人の体型に合わせてヒゲやハチノスが入っていく。はき込むことで誕生する世界で唯一の一本です。男なら惚れるなってほうが無理な話です(笑)」。
日本に帰った上諸さんは古着のインポーターのもとで5〜6年働き、2007年に独立。自ら古着店の経営を経て、フリーの古着バイヤーとして生計を立てるように。
東日本大震災が起きたのはそんなときだった。
自然栽培の野菜の味に惚れ、転身
「改めて食について考え、いろいろ調べて取り寄せました。そうして農薬はおろか、肥料さえ使わない自然栽培の野菜を知り、あっという間に虜になったんです」。
この世界に賭けてみたいと思った上諸さんはしかるべき資格を取り、2016年にはシェアキッチンを借りてオーガニック弁当のデリバリーサービスをスタートさせた。
当初こそ月に1回しか注文がこないときもあったが、折からの健康ブームでほどなく軌道に乗った。二足のわらじだったバイヤー仕事からは足を洗い、2017年6月、正式に「愛菜食堂がじゅま〜る」の看板をあげた。
「愛菜食堂がじゅま〜る」の特徴の第一は、体に優しい食材である。
野菜は無農薬・無肥料(=自然栽培)か無農薬・無化学肥料がメインで、主な産地は群馬、埼玉、千葉、宮崎、鹿児島、与論島。米は橋本農園のハツシモか五代目森山清次兵衛のササニシキ。いずれの米も自然栽培で育てられている。
仕入先を探すのも簡単ではない。これだけのラインナップをどう揃えていったのか。
「東日本大震災を機に仲間たちも生き方を見直すようになりました。沖縄に移住した人もいれば、農家を始めた人もいました。僕の仕入れのとっかかりは、友人の農園でしたね。そこからひとり、ふたりと取引先が増えていった感じです」。
料理そのものも評判だが、趣向を凝らすようなことはしていないという。
「僕が心がけているのは野菜の味を最大限引き出すこと。重ね煮やウォーターソテーという調理方法が好例ですが、していることはとにかく手間暇かけてやることですね」。
いち早くさまざまなニーズに応えたメニューも「愛菜食堂がじゅま〜る」を語るときには欠かせない。ヴィーガン、ベジタリアン、グルテンフリー、そしてムスリムフレンドリー。そのきめ細やかなメニューを、上諸さんは日本でもかなり早いタイミングでかたちにした。
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