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夏の“やりたい100”
3代目となるBMW 1シリーズの白眉は駆動方式の変更によりもたらされた実用性の高さにある。前モデルまでは、後輪駆動だったが、前輪駆動に変わって室内が広くなったのである。
BMWといえば後輪駆動がもたらす“駆け抜ける歓び”が真骨頂であるけれど、新型の1シリーズは前輪駆動となり、ブランドが掲げる“歓び”のスローガンを捨ててしまったのか?と“ビーエムファン”ならずとも思うことだろう。しかし答えは「NO」だ。やっぱり走って楽しい。数m走らせただけでわかる重厚なステアリングの気持ちのいい感触、狙いとおりにアクセルとステアリングの操作でレーンをトレースできる。いい機械を動かしているゼ、と思える感触がそこにはちゃんとあった。
「うちの車は天才なのだ」と日本における1シリーズの広告は謳う。35km/h以下の走行時に、直近50mのドライビングルートを自動的に記憶し、そのルートをそのまま後進する手助けをしてくれる「リバース・アシスト」や、縦列駐車をサポートする「パーキング・アシスト」、上級モデルである8や3シリーズに搭載されている音声による呼びかけで車両の操作や情報へのアクセスが可能な「BMWインテリジェント・パーソナル・アシスタント」などが天才と謳う所以だ。
これらハイテクを盛りだくさんに搭載した理由に、BMWはフォルクスワーゲン ゴルフやメルセデス・ベンツ Aクラスなど、群雄割拠なプレミアムコンパクトカー市場で、絶対に負けられない戦いを挑んでいるからというのがある。それが前輪駆動の採用というドラスティックな変更に始まり、微に入り細をうがったテクノロジーを投入し、しまいにはCMに「天才バカボン」までを引っ張り出してアピールする。
ところで、私事で恐縮だが、プライベートではひと世代古いアウディ A3に乗っている。だから比べる隙もなく、新しい1シリーズがいい、と乗ってすぐにわかった。「悲しいけどこれ事実なのよね」とアニメ「機動戦士ガンダム」のスレッガー・ロウのごとく呟いてしまった。
このクラスのベンチマークであるフォルクスワーゲン ゴルフの8世代目が日本上陸間近だ。この超優等生に対し、新型1シリーズはハイテク武装をし、さらにはスリムなヘッドライト、グリルやサイドウインドーなど数々のフレームを光沢仕上げにし、エレガンスなデザインで街の景色に灯りを照らす。新たなる駆け抜ける歓びを体現する、快作だ。
平井敬治=写真 荻山 尚=編集・文
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