朝6時半に起きて子供を送る生活

平野さんは自身の創作活動をデビューから第1期、第2期という具合に、明確に期分けしている。36歳から37歳にかけての作品『空白を満たしなさい』は第3期の締めくくりとして描かれたものだった。そして今、作家人生の第4期目にさしかかっている。常に新しいシリーズを意識して書くことで、平野さんは自分の中の軸を見失わないでいられるのかもしれない。
「もちろん連続するテーマもあるけど、自分の中で作風を毎回変えて次は何を書こうか熟慮するのも僕にとっては楽しい時間です。20代、30代は次々に書きたいことが浮かんできて、早く形にしないと、という切迫感もあったし、1日10何時間書き続けないと逆に苦しかったんですよ。でもこの年齢になって、残された時間でやりたいこと、すべきこと、できることを冷静に考えて、本当に自分が書くべきものはなんなのか選別するようになりました」。
何かに追われるように書き続けていた時代を経て、今は書きたいけどあえて書かない、そんな余裕すら生まれた。家族ができたことも働き方に変化をもたらした。
「今は朝、子供を送っていくために6時半ぐらいに起きて朝ごはんを作って、送りついでに散歩して……、というのがルーティンになっています。仕事に取り掛かるのは9時頃で子供が帰ってくるまで執筆して、夕食前後は家族の時間。昔は完全に夜型でしたけど、子供ができてからは早寝早起き。週末も家族との時間があるので仕事をしなくなったし、飲みに行く機会も減りましたね」。
すっかり良き夫、良き父となった平野さん。不確定な未来を生き抜く40代にとって、ハイリスク・ハイリターンで人生を一点投資するのは難しい時代となったと語る。

「僕がよく言う『分人主義』に繋がるんですが、自分自身を複数のプロジェクトのように捉えて、未知の人、自分と違うバックグラウンドの人とも積極的にコミュニケーションを取ることがこれからはもっと大事になる。僕自身、人生の中で影響を受けた人には、僕が差別的な人間だったらまず出会えなかった。自分を狭いところに追い込んでいけば可能性がどんどん狭くなっていくし、出会いの機会を失っていきます。年齢を重ねても、オープンで居続けられるよう努力しないと」。
そのためには若い世代の人にも教えを請うほどの柔軟性も、ときには必要だ。
「もう20代の人との感覚が違ってきてるなと感じることが増えた。でも敵対しても何もいいことないんですよ。やっぱり優れた才能や新しい感覚に対しては、敬意を払って、色々教えてもらいたいなと思いますね。時代遅れのおっさんにならないように(笑)」。
父の年齢を超えた第4期もそろそろ終盤だろうか。そして、第5期を何よりも楽しみにしているのは平野さん自身のようだった。
藤野ゆり=取材・文 小島マサヒロ=写真