近い将来、我々のランニングスタイルを、いや社会までも変えるかもしれない。そんな未来を予感させるシューズが発表された。
それがこの「スマートシューズ」。先日、アシックスがメディア向けに発表したデジタルデバイス内蔵のランニングシューズである。
走行時間や距離を計測できるデジタルデバイス搭載のランニングシューズは、ここ数年、各メーカーが開発にしのぎを削っているが、今回発表された「スマートシューズ」は、従来品とは比較にならない進化を遂げているという。一体どういうことなのか。
アドバイスをくれる、世界初の「スマートシューズ」
この「スマートシューズ」は、アシックスとベンチャー企業のno new folk studio(ノーニューフォークスタジオ)との共同開発によって生まれたもの。
ノーニューフォークスタジオは、2014年からセンシングシューズの開発を続ける企業。デジタルデバイスに深い知識を持つ彼らの技術力と、アシックスの多様なシューズラインナップを組み合わせ、子供から高齢者まで、あらゆるニーズに応えるランニングシューズを目指したのがこの「スマートシューズ」である。
気になるその構造だが、ミッドソール部分にわずか数センチの空間を作り、そこに埋め込んだセンサー機能付きのデジタルデバイスが足の動きを計測してくれる。
では、これまでのデジタルデバイス搭載のシューズとは何が違うのか。それは、ただ走行時間や距離を測るだけでなく、そこで得たデータを解析し、アドバイスをくれるという点にある。
「モーションキャプチャーのように、足の動きをリアルタイムで解析し、歩幅、歩数、着地点などを瞬時に計測できます」とノーニューフォークスタジオ代表の菊川裕也さん。計測したデータはアプリを通じ、リアルタイムでスマホやパソコンに送信され、ランニングのサポートを行う。
「今、自分のスキルがどれくらいなのか、今の走り方だと怪我のリスクがどれくらいあるのか、スキルを上げるにはどこを鍛えればいいのかなど、このシューズを履いて運動することでさまざまなことが明確になります。例えば、つま先、中足部、かかと、どこで着地したとか、着地時間などもフィードバックされるんです」(菊川さん)。
さらには、ランニングタイプやフォームの癖なども分析。自分の詳細なランニングデータが取得でき、ランナーにとっては至れり尽せりの一足になることは間違いない。
さらに、大勢のランニングデータが集まれば、より精度の高いアドバイスをランナーにフィードバッグできるようになる。従来の個別データを集めるだけのデバイスから、多くのデータから読み取り、より最適なアドバイスの提供を目指したのが、この「スマートシューズ」なのだ。
人生100年時代へ向けたデータ活用にも期待大!
今回発表されたのはランニングシューズだが、将来的にはウォーキングでの活用も視野に入れているという。
例えばこの技術をウォーキングシューズに使えば、日々の歩行データから歩き方の指導やヘルスチェックも可能だ。立ち仕事をしている人や、デスクワークの人などのデータからライフスタイルを分析し、それぞれに合う歩き方やワークアウトを提案できる。
「この機能の付いた靴を子供からお年寄りまで履いてもらい、その歩行データをビッグデータ化できれば、それぞれに合った歩行アドバイスができるようになります。その蓄積が、将来的には『誰もが健康的に歩き続けられる社会』の実現につながると考えています」とは、アシックススポーツ工学研究所所長の原野健一さん。
また、蓄積された歩行データは、未来の街づくりにもつながるともいう。
「駅中で人の平均の歩行速度を分析すれば、その駅の混雑度が推定できたり、ある道で転倒する人が多ければ、それは道路に問題があるかもしれない、と仮定できる。このシューズはひとり一人に役立つものでありながら、集計したデータで、やがては社会全体にも役立つと考えています」。
「スマートシューズ」が創造するスマートシティ。未来の靴づくりから街づくりまで見据えているとは、なんとも夢がある。こちらは年内に商品化予定。期待に胸を膨らませながら、発売を待とう。
北村康行=文