上等な革靴を手に入れたのに、酷使して傷めた革靴をしばらく安静にと休ませた結果、下駄箱の隅で眠らせ続けている……。そんな経験のある靴好きはもちろん、どう手を施していいかわからず愛靴から目を背けてしまっている人も、リペアの先送りだけは本当にモッタイナイ。
そんなわけで、無類の革靴好き・中室太輔さんのリペアオーダーに同行して、そのコツと醍醐味を教えてもらった。
| 教えてくれたのはこの人! ムロフィス代表兼ディレクター 中室太輔さん(38歳) 革靴に目がない中室さん。なかでもローファーが大好きだそうで、ジェイエムウエストンだけでも7足をローテーション。つま先のリペアにスチールを好む理由は、「圧倒的な強度と、歩いたときにカツカツと音がするのが心地良いから」とか。 |
革靴をリペアしないなんてモッタイナイ!
絶対にコイツとは長く付き合っていく。そう心に決めて、本格紳士靴ブランドの名作を購入したはずなのに、一定期間だけ履いてヘコたれてしまった革靴をそのままにして放置。寿命切れ!?と諦めてはいないものの、リペアを先送りして、いつしかめっきり履かなくなったという事態は、まさに“宝の持ち腐れ”だ。
革靴を愛してやまない中室太輔さんに言わせれば、「いい革靴の寿命と履き心地の良さは、リペアで決まる」。だから、今年こそリペアを!と思うなら、とりあえずアウトソールの状態を見て、靴の傷み度合いを確認することから始めたい。
「まず、リペアすべきかどうかは、僕の場合、つま先部分のソールの削れ方で判断します。積み革のいちばん外側の部分が削れた時点で、強度の高いスチールを付けてもらうのが流儀。ヒールは磨耗がかなりひどくても交換は可能なので、順番的にはあとでも構わない。アウトソールそのものに穴が開いた場合はフルで張り替えが必要です」。
リペアオーダーするのは、20年近く通う名店ユニオンワークスだ。
「正直、何も知識がなくても、持って行って靴の状態を見てもらえば、リペアの選択肢を細かくアドバイスしてくれるので心配いりません。スチールやヒールのパーツの品揃えもとにかく豊富ですし、“こんなふうにしたい”と伝えれば、しっかり応えてくれますよ」。
2003-134
Before
今回、中室さんがリペアをオーダーするのは、クロケット&ジョーンズの名作ローファー「ボストン」をアップデートさせた“ボストン2”。購入してから8カ月ほどで、履いた回数は15〜16回。そろそろアウトソールの磨耗が気になってきたという。
電話予約は不要のため、まずは思い立ったら靴を店舗に持参。現在の靴の状態をその場で査定してもらう。ソールのつま先はもちろん、ヒールの削れ具合、アッパーの傷みの程度などを一緒に細かく確認してから、具体的なリペア方法の相談に移る。
アウトソールの主な補強パーツは、スチール、レザー、ラバーの3種類。見え方の好みや強度、用途などに合わせて、アドバイスを聞きながら自由にセレクトできる。
中室さんは、削れたつま先に必ずスチールを付ける。トウのカーブにマッチするものをセレクト。ちなみにスチールは、ユニオンワークスで最も支持率が高いソールの補強パーツだという。
スチールではなくレザー(上・中)やラバー(下)を使ったリペアの一例。レザーソールには、やはりレザーで補強したほうが、自然な見え方に。グリップ力を重視するならラバーを貼るのがベストだ。
中室さんはソール以外に「雨粒でできたアッパーの色ムラが気になる」という。少しでも不安な点は、何でも相談してみよう。幸い、磨きをかければすぐきれいに仕上げることができるそうだ。
各店舗にはミシンなどを常設していて、簡単なリペア作業ができる。ステッチのほつれや部材のほころび程度ならケースバイケースで即リペアも可能だ。ちなみに本格的なリペア作業は、専門的な設備が揃う川崎市の工場で、一貫して行われる。
After
1週間後、リペアが完了。今回は、つま先部分のスチールの埋め込みのみで、アッパーをきれいにポリッシュしてフィニッシュ。ちなみに予算は、削れたレザーの継ぎ足しが1000円、スチールの張り込みが4000円の合計5000円(税別)だった。
リペアして、戻ってきた靴には、格別な愛着が湧くのだという。
「自分の足に馴染んだ世界で一足の靴ですから愛情もひとしお。革靴を愛でる、まさに紳士の名に相応しい嗜み方。そうやって自分に酔うのも楽しいんです(笑)」。
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