新たなデザインの発明とビスポークの血脈
1947年、セラピアンに新たなデザインが誕生する。ラム(羊革)のナッパレザーを格子状に編み込んだ「モザイコ」だ。
「この『モザイコ』こそクラフツマンシップを象徴するデザインです。幅1cm以下のレザーテープを、その言葉のとおりモザイク模様に編み込んでいきます。熟練した職人による究極の手仕事といえます」。
上の写真にあるトートバッグのようにボディ全面に採用することもあれば、マチ部分にアクセントとして用いることもある。いずれにしても、ラグジュアリーな遊び心を具現するデザインといえる。
この「モザイコ」は瞬く間に当時のミラネーゼを虜にした。魅力的な色と華麗なデザインのオーダーメイドバッグ。その噂はミラノからヨーロッパ全体へと広がった。当時、ヨーロッパの富裕層の間では飛行機旅行がトレンドに。空の旅に携えるトランクやボストンバッグのオーダーが増加した。実際、’50〜’60年代のセラピアンのアーカイブには、さまざまな型のトラベルバッグが残されている。
「オーダーメイドのバッグを作り続けてきたことが、ブランドのレガシー(遺産)になっています。顧客の要望に応えるための、たゆまぬ技術の研鑽。既製品を多く展開する今も、ビスポークはセラピアンのアイデンティティなのです」。
コルテシ氏はそう言ってスマートフォンを取り出した。見せてくれたのは“ヴィッラ・モーツァルト”の中にあるビスポークサロンの写真。なんと1000色の革見本をカラーグラデーションにして、壁一面に貼っているのだ。
「ブランドの世界観を表現するための仕掛けではあります。しかし実際のところ、小さな革見本を一枚一枚めくっていくよりも、多彩なレザーをひと目で見渡したほうが、オーダーするお客様もイメージが湧きやすいのです」。
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