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「利己」的に働くからこそ自発的になる

松下氏は「自分のことだけを徹底して考えてきちんと動けば、結果としてうまくいく」と言っているように私には聞こえます。「利己的でいいのだ」と。人は自分のためにと考えればアイデアも出ますし、努力もできます。
ただ、多くの人は、それすらできておらず、自分に不利益になるようなダメなことばかりしている。
上司や経営者のやりたいことに貢献すれば、評価されて報酬も上がる。こんなことは極めて当たり前で卑下すべきものでもなんでもないですが、「上司に媚を売ったら負け」みたいな中二のような気持ちになって、わざと反抗したりスルーしたりして、一時的にウサを晴らす。これでは単なる自害行為です。
 

「利他」を強要されれば自分で考えなくなる

そうでなく、もっと「利己」的に、つまり自分にメリットがあるように考えれば、経営者や上司に役立つことは何かと自然に真剣に考え、動き、その結果、評価されるというのは当然でしょう。
ところが、よく上司のみなさんが言う「経営者目線」は、「うちの経営者のために働け」=「滅私奉公」的な自分を捨てて会社のために働けという「利他」を強要するようなニュアンスが先にあるように思います。
似た感じですが、一方は「利己的に考えるから、自立的・自発的になる」のに対し、もう一方は「利他的に考えよと言われるから、従属的・反応的になる」と効果は正反対です。つまり自分の頭で考えずにオーダーされたことだけやる「ガキの使い」のようになってしまい、上司の意図とは真逆の結果となるわけです。
 

勝手に「経営者の目線」になったらどうなるか

そもそも経営者は「会社全体」にとって最適な判断を行う立場の人です。場合によってはそれが会社のためになると思えば、ある社員が今せっかく頑張っている仕事からの撤退を命ずるかもしれません。一方、社員は「任された範囲の中」で最適な判断を行う立場の人です。よそ見せず、自己判断をせず、まずはミッションをクリアすることに全身全霊をかけることが使命です。
それを、勝手に経営者の立場に立ってしまい「これってやめたほうがいいですよね」とミッションをやめてしまったらどうなるでしょうか。組織はバラバラになってしまい、事業は成り立たないでしょう。もちろん経営者の立場を本当に理解して、適切な提案を上司や経営者に対して行い、それが受け入れたれた結果、自分のミッションが変わるというのであれば素晴らしいと思いますが、それはかなりハイレベルな話です。
 

自分の仕事を部下に押しつけるな

結局、若手はまずは自分の与えられた仕事に集中していればよいのです。それは「言われたことをする」ということではなく、与えられた仕事で最も効果を出すためには何をすればよいのかを自発的にどんどん考えるということです。それが松下幸之助氏の言う「社員稼業の社長」ということだと私は思います。
現実的にはなかなかわかるはずもない「(自社の)経営者目線」を想像して勝手な判断を自分の仕事に紛れ込ませる必要はありません。むしろ「(自社の)経営者目線」を持つべき人は、経営者からオーダーを受けて部下に仕事を配分する役目である管理職です。部下に対して「(自社の)経営者目線を持て」と言っている上司は、本来自分がすべき仕事を部下に丸投げしていないか、振り返ってみるべきでしょう。
曽和利光=文
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。
 
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石井あかね=イラスト


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