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「獺祭」の旭酒造・櫻井博志氏が協力

パスカル・マーティ氏と旭酒造の櫻井博志会長。
低温発酵ワインを完成させただけでもビッグニュースだが、驚くのはそれだけではない。
日本酒の製造を学びたいというマーティ氏の熱意にこたえたのが、旭酒造の櫻井博志社長(現・会長)だということだ。何を隠そう、国内外でその名を轟かせる「獺祭」の生みの親である。
櫻井氏は過去、ワイン酵母を使った日本酒造りに挑戦した経験もあるが、今回、その当時の醸造プロセスとともにあらゆるデータをマーティ氏に提供。製品化への骨子ともなる醸造プラン作りにも参加し、低温発酵に向いている「7号酵母(真澄酵母)」を使うことを2人で決定した。
酵母を安定的に確保するために「日本醸造協会」の正会員に迎え入れられるなど、多方面からの協力を得たマーティ氏だったが、チリに酵母を思うように輸入できないなど苦戦も続き、7合酵母でようやくワインの仕込みが叶ったのは2018年。日本酒との出会いから紆余曲折すること7年が経っていた。
「実現できない夢、と思っていた。しかし、日本の伝統、フランスの文化、チリのテロワールが揃ったことで、この日本酒でもワインでもない、新しいものを生み出すことができた。これは三か国の文化が交わって生まれた作品だ」。
 

ワインの名称とラベルデザインに『神の雫』の亜樹 直氏

『神の雫』の作者、亜樹 直氏(写真左と右)。亜樹氏はワインに造詣が深いだけでなく、2010年には、権威あるフランスのワイン専門誌「ラ・ルビュー・ド・バン・ド・フランス」から、ワイン業界に貢献したと評価され、「最高賞」に選出されたことも。日本人初の栄冠だった。
マーティ氏がまず手掛けた品種はソーヴィニヨン・ブラン。通常は発酵に10〜15日程度で済むところ、ぎんの雫はじっくり、ゆっくり、低温発酵で40〜50日をかけた。さらにシャルドネに関しては、100日以上かけたという。
一般的なソーヴィニヨン・ブランは「切れのある酸、シャープな辛口」を特徴とするが、ぎんの雫は白桃や白い花を思わせる芳醇な香り、そして、マーティ氏が日本で飲んだ大吟醸酒のなかに見出したアロマを表現。また、長く寝かせることで酵母の世代交代が活発になり、ワインのなかにさまざまな成分が溶け出し、コクのある味に仕上がるというオマケまで付いてきた。
さらには漫画『神の雫』の作者である亜樹 直(あぎ ただし)氏もマーティ氏の情熱に共感し、ワインの名称「ぎんの雫」を命名。ワインに造詣が深い亜樹氏は、「ぎんの雫」を次のように評している。
「口に含んだ瞬間に感じるテクスチャーは、ワインというより日本酒のそれで、なおかつ舌のうえに残るアフターにも不思議な吟醸香が感受できる。この斬新なワインは、あらゆる和食にマリアージュするだろう。ワインと合わせるのが難しい鮨や刺身、そしてもちろん家庭料理にも。 和食だけでなく、魚のカルパッチョなどにも合うに違いない」。


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