ただくつろぐだけでも気持ち良い時間を過ごせ、サーフィンをした瞬間に人生は大きく変わってしまう。ひとつのシーンからそんな海の魅力を発見していくコラム。
今回は「Waves In Japan」
究極的に玄人好みの写真集である。綴じられているのは、数年に1度、その姿を見せるかどうかという日本の波ばかり。
なぜ、これらの写真が玄人好みなのかといえば、広く共有される「日本の波」と大きく様子が異なるからである。それはハワイのビッグウェーブのようであり、決して多くの人にとって楽しいものではない。求道者のごとくサーフィンを追求する者だけがライドできる波であるためだ。
撮影者の木本直哉氏は、これらをおよそ40年かけて撮り溜めてきた。それほど時間がかかった理由は波の立つ頻度によるところが大きい。かつ、「美しい波の姿を」となれば、なおのこと撮影チャンスは少ない。
数年のうちに1時間もないタイミングで撮られた波もあり、ファインダーに収めるためには軽快なフットワークに加え、「波が立つ」と予測できる知見と正確な情報をくれるローカルサーファーたちとの信頼関係が必須となる。ゆえに、ハズれた日々も数多く、まさに木本氏の人生を捧げた1冊なのである。
memo木本直哉氏は、1975年に創刊された日本初のサーフィン雑誌「サーフィンワールド」に参画以降、サーフィンと波の写真を撮り続けているサーフィンフォトグラファーの第一人者。今回ブエノ! ブックスから発売された自身初となる写真集『波巡礼—THE SURF PILGRIM』には、北海道から沖縄にいたるロケーションにおいて撮られた一期一会の波の写真を厳選して収録。「これが日本?」という驚きとともに楽しめる1冊となった。
渡辺修身=写真 小山内 隆=編集・文