時器放談●マスターピースとされる名作時計の数々。そこから6本を厳選し、そのスゴさを腕時計界の2人の論客、広田雅将と安藤夏樹が言いたい放題、言葉で分解する。「ラグジュアリーブランド編」となる今回の3本目は、ブルガリの「オクト フィニッシモ」。
安藤 思い起こせば、あれ、いつでしたっけ? 一緒にローマまで行きましたよね。「ブルガリ オクト」の発表会。
広田 行きました、行きました。ワールドプレミアですよね。2012年だったと思います。
安藤 2012年かぁ、お互いあの頃はまだまだフレッシュでしたよね(笑)。ブルガリが満を持して新作のメンズウォッチを出す、ということで、かなり気合が入った発表会でした。日本からも何人かのジャーナリストに声がかかって、まずはスイスの工房を取材して。
広田 その後、40度を超える灼熱のローマへ(笑)。
安藤 ローマで大々的にドカーンと発表するから、それまでいっさい秘密、とか言われてたのに、スイスの工房に行ったら、そこで働いているおじさんが、もうオクトしてたんですよね(笑)。「これが発表されるんだ!」ってみんなわかっちゃったけど、見てないふりして(笑)。ブルガリに関して言うと、「オクト」発表前と発表後で、かなり空気が変わりましたよね。
広田 はい。がらりと。
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安藤 男性がビジネスでブルガリをするというのが普通のことになった。ひとつの新作でこれほどまで空気が変わるのを目の当たりにしたのは、前にも後にもオクトしかないかもしれません。
広田 オクト発表以前に、ブルガリはジェラルド・ジェンタの時計ブランドを買収し、垂直統合しています。オクトの八角形はジェンタを象徴するモチーフです。
安藤 ジェンタといえば、名作と呼ばれている時計を数多くデザインしている伝説的な時計デザイナーですよね。パテック フィリップの「ノーチラス」とか、オーデマ・ピゲの「ロイヤル オーク」とかも彼のデザイン。本人はすでに亡くなってしまったけれど、ジェラルド・ジェンタの名を冠した時計が今年ブルガリから発表されました。オクトはジェンタ自身のデザインではないんですが、その精神がしっかり生きている気がします。
広田 110の面で構成された複雑なケースは見事。
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