リニューアルしたJ12は何が良くなったのか?
安藤 広田さん的には、今回のリニューアルはどの辺を評価してますか?
広田 中身がチューダー(TUDOR)のムーブメント製造も手掛けるケニッシ社製のムーブメントに置き換わって、超よくなった。
安藤 シャネルは昨年、ケニッシ社の株の20%を取得してますよね。
広田 そう。ケニッシ社の作ったJ12専用のキャリバー 12.1というのがあって、何が超いいかと言うと、なんかね、ちょっとオタクな話になるんですけど、精度を司る「テンプ」というパーツがショックに強い「フリースプラング」という方式に替わったんです。加えてパワーリザーブが約70時間もある!
安藤 パワーリザーブが70時間あるのは、便利ですよね。平日使用して、土日まったく使わなくても月曜日にまだ動いているから時刻修正の手間がない。実用性の高い時計を選ぶためのひとつの目安とも言えます。
広田 しかもショックを与えても狂いにくくなったことで、下手なスポーツウォッチよりガンガン使えるようになった。それでいて、バックルが薄く作られているからデスクワークの邪魔にならないんですよね。
安藤 そもそもセラミックス製のケースやブレスレットは傷がつきにくいわけだから、機械まで丈夫になったとなるとある意味最強の実用時計と言えるかもしれません。
広田 ですです。あと、これも忘れちゃいけないんですが、自動巻きの巻き上げ効率もすごくよくなっている。
安藤 ムーブメントはまさに必要十分なものが搭載されたということですね。ぼくとしては、さらに文字盤デザインのリニューアルにも凄みを感じました。
広田 パッと見はほとんど変わってないんですよね。
安藤 そう。なのに明らかに今っぽいんですよ。数字のフォントとか、新旧を並べないとどこが変わったか分からないくらいの微細な修正なんですが、全体で見るとすごくしっくりくる。リニューアルと言うと、普通、どうしても変わったことを主張したがるじゃないですか。ところがシャネルはそんな愚行はしないわけです。J12の世界観はまったく変わらないのに、今の方が明らかに良い。これって凄いと思うなぁ。
広田 インデックスも樹脂製からセラミックスに変わりましたね。
安藤 そう。それによってケースとの調和が生まれるだけでなく高級感もぐっと増しています。そしてケースバックもそれまでの金属製からセラミックスへと変更された。金属アレルギーの人にもしやすくなったし、何より、モノとしての魅力が高まりました。
広田 そういう細部までしっかりとモノ作りをするから、シャネルってスイスの時計ブランドからも一目置かれてるんですよ。ある意味尊敬されている。
安藤 セラミックスの流行もそうですけど、時計専業ブランドがなかなか出来なかったことを、軽々とやってしまった感じもありますよね。
広田 そう。そういうことができるのも、腕時計としてのパッケージングがすごくうまいからなんですよね。もともとが衣服ブランドだから装着感にもすごくこだわってるし。J12、本気で良いな。自分でも買いたいくらいです。シャネルは独立時計師のローマン・ゴティエやF.P.ジュルヌにも出資してますし、今後はますますハイレベルな時計を仕掛けてくるんじゃないかと、密かに期待しています。
※本文中における素材の略称:SS=ステンレスステール
[問い合わせ]シャネル カスタマーケア0120-525-519 関 竜太=写真 いなもあきこ=文