こちらはオアンさん(20歳)。ハノイ近郊のハイズオンという街の出身で、2017年に日本に来た。
看板メニューだという「牛肉のフォー」(730円)をください。
まず、ネプモイが本気で美味しい。香ばしい香りとほのかな甘み。やさしい味なのだ。そして、日本米で作ったフォーも牛すじの煮込みにやさしく溶ける。生麺はすぐに伸びるので、さっと食べるのがポイントだ。
ベトナムラー油は「サテ」と言うらしい。サテ、オアンさんは高校卒業時にベトナムの銀行系の大学を受験したが失敗。
「試験科目は英語、数学、考古学とか。とくに数学がダメで不合格でした」。
お母さんの勧めのもと、ビジネス系の専門学校に通うために日本で通訳として働いている姉を頼って来日したらしい。
ところで、郷里のハイズオンってどんな街?
「山とか、あとコメを育てる場所、何でしたっけ?」。
田んぼですか?
「あ、そうです。田んぼもたくさんあります。地元では有名な景色がこれです」。
こ、これは?
「えーっと、日本語がわかりません」。
おもむろに翻訳アプリで検索するオアンさん。
なぜ有名なのかは教えてもらえなかったが、ピュアな人だとわかった。大学受験に失敗した後は、ベトナムで半年間日本語を勉強したのちに来日。新聞配達のアルバイトをしながら日本語学校に通ったという。
「東京は電車に人がいっぱいでびっくりしました。生活費も高い……」。
「新聞配達はバイクでやっていました。ベトナム人はみんなバイクに乗ります。アルバイト代は月15万円。でも、冬は寒いので8カ月ぐらいでやめました」。
日本語をブラッシュアップしたのちに、今年の4月からビジネス系の専門学校に通い始めた。そこでは、貿易、IT、英語などを勉強している。卒業後は日本のホテルでコンシェルジュの仕事に就きたいそうだ。
「セットで1000円ぐらいでした。美味しかったけどベトナムで食べるほうが美味しい」。
新聞配達で生計を立てていたという話に感動した。立派なコンシェルジュになって、どこかのホテルのロビーで偶然再会する日を楽しみにしています。
では、最後に読者へのメッセージを。もちろん、ベトナム語で。「何と書いたんですか?」と聞くと、以下のように教えてくれた。
「おはよう! 私はオアンと申します。ベトナムのハイズオンから参りました。今はビジネスの専門学校で勉強しています。私のアルバイトはチョップ高円寺でやっている。皆さん、機会があったらぜひ来て食べてみてください」。【取材協力】チョップスティックス高円寺本店東京都杉並区高円寺北3-22-8 大一市場内電話番号:03-3330-3992http://namamen.com>連載「看板娘という名の愉悦」をもっと読む石原たきび=取材・文