しかしそんな大西さんを救ったのが、今回のW杯だ。 「僕が復活できたのはまさに今回のW杯のおかげです。日本代表の試合を見ていて思ったのは、『こいつらW杯のためだけに戦っているんじゃないな』って。日本ラグビーの未来をかけて責任感を持って戦っているからこそ、これだけの力を発揮できているんだと。僕も負けてられないなと思いました」。 「ワンチーム」で闘った日本代表の姿に勇気をもらったのは、ほかならぬ大西さん自身だったのだ。自国開催での1カ月半は感動の連続で夢のような時間だったという。 「ラグビーで国がひとつになる瞬間に立ち会えて、スポーツの持つ力を改めて痛感しました。だからこそ今後もスポーツの、ラグビーの魅力を伝えていく仕事がしたいですね」。 ラグビーを一過性のブームで終わらせたくない。現役時代のような熱い思いを取り戻せたのは、W杯のおかげだった。そんな大西さんは現在、立命大学のバックスコーチとして活躍するほか、ラグビー解説者としての仕事やメディア出演などをこなし、ラグビーの魅力を多方面に伝えるべく多忙な日々を送る。今回のW杯の開催前に、著書『ラグビーは3つのルールで熱狂できる』(ワニブックス)を上梓したのも、ラグビー界を盛り上げる取り組みの一環だ。 「ラグビーって“誰かのために”っていうスポーツなんですよ。痛いスクラム組んでも、顔上げたらほかの選手がトライをとってくれている。スクラムの活躍はあまり評価されない。でもひとつひとつの“誰かのために”が勝利を生むし、結局は自分にとってもプラスになる」。 大会来日中の海外選手が台風被害に苦しむ地域の災害ボランティアに参加するなど、ラガーマンの真摯な振る舞いも話題になった2019年のラグビーW杯。何かのために、誰かのために。そんなラグビーマインドに大西さんは今も支えられている。 「40歳前後って、いろいろ考える時期だと思うんですよ。僕が昔落ち込んでいたときに外国人選手によく言われたのは『age is only a number』。年齢なんてただの数字、という言葉です。できないことが増えても、学び続ける意欲を失ったら成長は止まってしまう。年齢なんて気にせず、夢中になれることを探し続けたい。僕はいくつになってもラグビー少年でいたいんです」。 幼い頃、花園ラグビー場で一心に目の前の戦いを見つめていた瞳の輝きを、大西さんは忘れていなかった。