上から目線でほめられてもうれしくない
さて、そう考えると冒頭で上司が言っている「ほめる」は、彼らにとっての承認欲求を満たすものではないことがわかります。上司が「ほめる」のは、たいていの場合、会社が「こうなって欲しい」という人物像に若者達が近づいているというときです。
しかし、そういう何かの基準に合わせてイケてる/イケてないと評価されるということは「価値絶対主義」であり、多くの若者はあまり気分良くはならないものです。上から目線で「お前もようやくわかってきたな」などと言われても、「オレはそんな基準でなんか判断されたくない!」と思うのがオチでしょう。
認めて欲しいのは「存在」
若者が承認して欲しいのは、そういった世間的なモノサシによるレベル感や順位などではありません。むしろそういう順位づけをされることは嫌がります。そうではなく、彼らが承認してほしいのは、自分という「存在」自体なのではないでしょうか。
「評価」=「価値判断」されるのではなく「あなたはその状態で大丈夫ですよ」と言ってもらいたいということです。もっと言えば、「(オレの基準で)オマエはすごい」ではなく、「オレはオマエのこと、なんか好きだな」「なんかいいと思っている」とただ単純に言ってほしいだけのではないでしょうか。
自信を持つことが困難な時代
人をほめるとき、誠実な人であればあるほど、その理由も言いたくなるもの。しかし「こういうことをして、こんな成果を上げたから偉い」と理由をあげてほめることは、存在を肯定しているのではなく、行動や成果を他人と比較して評価しているわけです。
今の若手はソーシャルネイティブであり、ずっと他人と比較されて生きており、「結局、上には上がいるからな」「自分なんてたいしたことない」と自信を持つことが困難な時代に生きています。だからこそ、オンリーワンの存在として認めてもらうことが、また競争の世界に飛び込んでいくパワーとなるのです。そこをサポートしてあげるのが上司の役目ではないでしょうか。
曽和利光=文
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。
石井あかね=イラスト