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「かつてはサウナで出産し、亡くなった人の遺体もサウナで清めていたんです。フィンランド人にとってサウナは人生で欠かせない聖なる場所」そして「妻に言えないことも話せる場所」と語るのは、ヘルシンキ最古の公衆サウナで外気浴をしていたフィンランド人男性。公道に面した入り口で、バスタオル一丁でビールを飲みながら外気浴をする彼らの姿に、通行人たちは目を留めることもない。それがフィンランドの日常の光景だから。
市内の公衆サウナで外気浴をしていた男性(筆者撮影)
そんなサウナ大国・フィンランド第2の都市タンペレ市で、10月上旬、第3回世界サウナフォーラムが開催された。工場見学やシンポジウム、数々のサウナ体験の場が用意された4日間のプログラムには、サウナビジネス関係者や熱狂的なサウナーたち350人以上が世界中から集まった。
フォーラムを運営するのは、サウナ・フロム・フィンランド。その創設者であるカリタ・ハルユさんは、大学、大学院でマーケティングを学び、旅行業界に勤務し世界を飛び回っていたハルユさんは、フィンランドのサウナや、国そのものも世界であまり知られていないことにもどかしさを感じ、サウナと国をセットでプロモーションしていくべきと、10年前に団体を創設。
国内のサウナ業界のネットワーキングから始めた地道な活動が実り、今やタンペレ観光局も巻き込んで世界にフィンランドサウナをアピールするプラットフォームを作り上げたという。

単なる観光政策のツールではない

フォーラムでとくに関心を集めていたのは、サウナがつなぐ社会とのつながりに関するプレゼンテーション。サウナがもたらす精神的な豊かさに触れ、世界幸福度ナンバーワンのフィンランドらしさも色濃く表れていた。
サウナ・フロム・フィンランドの創設者のカリタ・ハルユさん(筆者撮影)
タンペレ市は昨年、「世界サウナ首都」を宣言。歴史的に公衆サウナが栄えた街でもあることを武器にした世界的な観光プロモーションで手ぐすねを引いて観光客を待ち受けているのかと思いきや、どうやら様子が異なった。
タンペレのヤーッコ・ステンヘル副市長に話を聞くと、「世界サウナ首都のアイデアは、フィンランドサウナ協会とのコラボレーションから生まれたもの。観光政策、マーケティングの一環としても機能しているが、もっと深いレベルの話で、私たちにとってサウナは文化そのもの。タンペレにもっとサウナを増やし、サウナをタンペレの文化として示していきたい」と言う。
ステンヘル副市長(筆者撮影)
サウナを単に観光政策のツールとして使うのではなく、国内のサウナ文化を醸成させていくことが重要で、長期的にはその結果として街のアピール力につなげていければいいという考えのようである。
サウナフォーラムで印象的だったのは、幾度となく耳にした運営者たちの「エクスペリエンス(経験)を楽しもう」という言葉だった。それぞれのサウナでしか味わえない五感、サウナで交わす会話、クールダウンの際の湖や森の風景など、すべてが唯一無二のサウナエクスペリエンスで、それこそが価値だという。


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