「僕はもう20年くらい財布を使っていないんです」。そんな藤原ヒロシさんの言葉を聞いて、何か扉が開いたような、すっきりとした気持ちになった。
ブルガリ×フラグメントのカプセルコレクション第2弾。その中に、今の時代の財布として使うに相応しいカードケースがあった。そこで直接話を聞きたいと思ったのである。確かに、キャッシュレス化が進んだ今の時代はこれで十分。
「メンズは特にそうですね。先日ふとキャッシュレス時代のことを考えていて、結局財布は不要になるだろう、と思いました。日本でも海外でもキャッシュしか使えない場所は結構ありますが、そこまで大金を持ち歩くケースはありませんからね」。
そうか、いずれ財布らしい財布はなくなるのだ。“サイフのミライ”は限りなくミニマルな方向へ向かうのだ──と納得しかけたところで藤原さんはこう続けた。
「それでも財布というものは確かに残っているし、実際に使う人がいます。腕時計もそう。スマートフォンで正確な時間がわかるのに、なぜか存在し続けているんですよ」。
“サイフのミライ”に手が届いたかと思ったが、再び現在に引き戻される。う〜ん、それもそのとおり。では財布にしても腕時計にしても、なぜ残っているのでしょうか。
「たぶん人はモノに対して、何らかのファンタジーを持っているんでしょうね」。
今回、藤原さんはイタリアの工場を訪れ、レザーバッグの製作過程を目の当たりにした。伝統的なクラフツマンシップに触れ、大いに感銘を受けたそうだ。その一方で、このコレクションにおけるブルガリ側の製作チームには若い人も多く、闊達なコミュニケーションをとりながらプロジェクトを進めることができたという。デザイナーも自由な雰囲気のなかでクリエイションできたのではないか、と回想する。
「ブルガリの通常ラインではできないことも、フラグメントという(ストリートの)免罪符があれば新しいことができるかもしれない。つまり、製作チームにも僕にも刺激がある。これがコラボレーションの意義なのかな、と思うんです」。
そんなふうにして出来上がったものにこそ、僕らはより強いファンタジーを感じるのではないか。“サイフのミライ”がどうなるかはわからない。だがそこに必要性や機能性以外のファンタジーが求められる限り、まだ見ぬクリエイションが生まれる余地はあるのだ。
清水健吾=写真 来田拓也=スタイリング 加瀬友重=文