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何かが通じ合った瞬間を感じたのだろう。デロリアンは「金曜は暇か? パーティがあるんだ」とホフマンを誘い、二人は距離を縮める。麻薬の運び屋から足を洗い、FBIの情報提供者として暮らしていたホフマンは、世間からの名声を欲しいままにしていたデロリアンにあこがれのまなざしを向けるが、だがやがてそれは嫉妬と悪意に変わっていく。
「わたしが育ったアメリカでは、男は仕事で判断される」「父は、勤勉さを忘れない限り、夢を見てもいいと言った」「夢の車を作ること。成功したアメリカ人があこがれる車だ」――。
彼が発する言葉は、ホフマンをはじめ、多くの聴衆に陶酔感を与える。しかし物語が進むにつれて、単なるアメリカンドリームの体現者というくくりでは捉えきれないデロリアンのもろさや愚かさまでもが見えてくる。
そんなジョン・デロリアンを演じたのは『落下の王国』『ホビット』シリーズのリー・ペイス。劇中で描かれる時期のデロリアンの年齢よりもかなり若かったが、ペイスが持つ天性のカリスマ性が決め手となった。

撮影現場に30台以上のデロリアン

彼はデロリアンについてリサーチを行い、彼の複雑な人物像に惹き付けられた。
コカインの取り引きで逮捕され、会社も倒産してしまう ©Driven Film Productions 2018
「デロリアンについてみんながよく知っているのは、彼がマスコミを前にたくさんの発言をしていたから。彼は公の場を楽しんでいたようだが、本当はどんな人間だったのか、実はみんなあまり知らない。資料を見たり読んだりしてもジョン・デロリアンという人物のことはわからない。だからこそ演じるのが面白いと思った」。
撮影は主にプエルトリコで、1980年代に建てられた邸宅が多く残る地区がロケ地に選ばれた。撮影現場にはオーナーたちによって完璧に整備された30台以上のデロリアン(DMC-12)があったという。
だが本作の撮影中、2017年最大の熱帯低気圧と言われたハリケーン・マリアが、プエルトリコと隣のドミニカを直撃し、壊滅的な被害がもたらされた。プエルトリコの主要道路は封鎖され、電力も水道もストップするなど、混乱が続いた。
しかし、製作陣は1週間後に撮影を再開したという。あえて製作を続行することで現地経済に貢献し、復興を後押しするという狙いもあった。現地スタッフの家族には、撮影隊が調達したガソリンや食料を提供してお返しをした。
また、俳優たちもプロデューサー陣などと一緒に「プエルトリコ・フィルム・フレンズ・リリーフ・ファンド」を立ち上げ、30万ドル以上を集め、一部を小児科病院に寄付。映画撮影隊とロケ地との良好な関係がうかがい知れる。
車好きではなくても、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を通じてデロリアンという車を知っているという人は多いだろう。だが、その背景に隠されたエピソードは案外知られていない。
本作は、忘れ去られた破天荒な事件を浮き彫りにしただけでなく、ホフマンとデロリアンの複雑な友情模様を丁寧に描き出している。そうしたシーンを見るとグッとくるものがある。
 
壬生智裕:映画ライター
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記事提供:東洋経済ONLINE


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