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この豚の角煮に入っている意外なアレ

風邪の気配を感じたら「レンコン入り豚の角煮」で潤いを
 お、うまそうだね。よろしく頼むわ。最近、ラガーマンの血が騒いで、筋トレ始めたからタンパク質は大歓迎。
ママ そうなの? 引き締まっては……なさそうだけど。
 2週間くらいだから、まだでしょう。
ママ はい、角煮ね。ぬる燗も一緒にどうぞ。
 ありがとう。お、煮卵ね、これこれ。あと……、レンコン入ってる?
ママ そこがポイントなの。
 なんで?
ママ から咳、くしゃみ、のどの違和感、鼻血。これ全部、秋に起こりがちな「燥邪」と言われる症状ね。
 俺、“全部のせ”じゃん。
ママ 読んで字のごとく、「乾燥の邪気」で、体の潤いを奪うもの。中医学では、乾燥に関するトラブルは、だいたい「燥邪」にカテゴリーされるわけ。だいたい風邪を引く前の無自覚的な症状が、これにあたるの。
<今晩の薬膳用語①>
燥邪(そうじゃ)=中医学における、人体に悪影響を及ぼす変化「外邪」のうち、代表的な6つを「六淫の邪気」と総称。乾燥にまつわるトラブルが多い「燥邪」はそのうちのひとつ。秋との関連性が強い。潤いや津液を奪ったり、バリアー機能を低下させたりする。
 
 
 でもさ、潤いって、水飲んだり、化粧水つけたりすればいいんじゃないの?
ママ うーん。もちろん悪くはないけど、いずれも一時的な効果しか期待できないかも。中医学では医食同源だから、適した食べ物を摂取して、体の中から変えていくという考えね。それが薬膳なのよ。
 で、このレンコンが「燥邪」に効くってわけだ。

ママ そういうこと。燥邪は、「肺」の機能が衰えると強く影響を及ぼすのね。レンコンは、その「肺」へ作用する豚肉や卵を補う食材ということ。トッピングしている松の実も肺に作用するの。
<今晩の薬膳用語②>
肺(はい)=中医薬膳の考え方のひとつとなる「蔵象学説」で記される「五臓六腑」の「五臓」のひとつ。これまでに登場した「肝」「腎」に加え、「心」「脾」の5つからなる。気を司り、水液の代謝を調整し、気血の運行も調整して、外邪の侵襲にも抵抗する。また、鼻と大腸とも関係が深い。
 
 肺って、酸素を呼吸によって吸収するあの臓器の?
ママ 中医学では、西洋医学の肺と少し意味が違うの。「五臓六腑に染みわたる」の五臓のうちのひとつで、簡単に言うと、呼吸や体液の循環を司る機能の総称ってところ。今度、おいおい話すけど、人間の内部で主に5つの機能が互いに影響しあっているという考え方なのね。
 ふーん。ちょっと興味が出てきたよ、中医学。スクラムも、ひとりひとりが頑張るだけじゃダメだから、なんだか似てる。
ママ 我田引水が過ぎるんじゃ……。あ、でも、それで言うと食材もスクラム組んでるわ。豚肉が持っている「滋陰」の効能は潤いをもたらすうえに、それ自体でも肺への作用を強化するの。それを「補五臓」といって、基本的に滋養強壮に効果がある食材の「レンコン」は、五臓すべての機能を助ける働きがあるから、がっぷり四つなのよ。
<今晩の薬膳用語③>
滋陰(じいん)=肌や体内の乾燥を改善し、「津液」を補い、体に潤いをもたらす効果のこと。
 
<今晩の薬膳用語④>
補五臓(ほごぞう)=五臓の働きを助ける効能。卵のほかに、ブロッコリーやキャベツなども、該当する。

 四つは、相撲だけどね。まぁさておき、卵はいわばユーティリティープレーヤーなんだね。なんでもできるナンバーエイトってところかな。なるほど〜。ホント、薬膳って「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン」じゃない? ますます気に入った! 角煮、お代わり!
ママ いくら筋トレしてるといっても、食べ過ぎは注意してね。
 
■薬膳ママ 小池美枝
アール・ド・ヴィーヴル代表。国際中医薬膳師。中医薬膳茶師。中医薬膳の講師や執筆のほか、ブランドコンサルティングやPR業務も手掛ける。かつて、某スイス時計ブランドのPRを長年務めた経歴もあり、年に一度のバーゼル ワールドでは「小池さんの手作りおにぎり」が、取材者たちの間で名物になった過去も持つ。
※なお、おばんざい屋は架空のお店です。本当にこんな店があったらなぁ。
山本 大=写真 髙村将司=文


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