OCEANS

SHARE

「グローバルシチズン」として解決したい、いくつかの問題

ーーそれほど多くの国を見てきて、なぜバングラデシュだったの?
シェー マーケットバッグに使っているのはジュート素材で、バングラデシュでは古くからジュート産業が国の主幹産業だったんだ。そうした歴史を踏まえ、現地の人たちとウィン・ウィンの関係を築きたいと思ったことが大きいね。

ラーン そして現地スタッフの彼女たちに製品クオリティを保ちながら仕事をしてもらうためにデザインはシンプルにしたんだけど、それがバングラデシュのプロジェクトを成功に導いた理由だと思うよ。デザインは言葉や文化の壁を飛び越えていくからね。僕らが生まれ育ったアメリカだけでなく多くの国で「アポリス」が受け入れられているのは、素晴らしいデザインが通訳をしてくれているおかげだから。
シェー 近年のカリフォルニアではビニール製のレジ袋をほとんど使わなくなったことも追い風になって、マーケットバッグが広く受け入れられた要因になったと思う。
ーーマーケットバッグはすべてバングラデシュで?
ラーン 印刷関係のみアメリカか日本で行なっているけれど、それ以外はすべての工程をバングラデシュで手掛けてるよ。

シェー マーケットバッグのプロジェクトは当初5人の女性と小さなレンタルスタジオで始まったもので、現在は6階建のビル工場で200名以上の女性が働くまでに大きくなったんだ。彼女たちの働きがあるから、12カ国で2000種類以上のバッグを展開できていて、ユーザーに喜んでもらえる。そして売上があるから、制作スタッフに公正で公平な賃金を支払えている。ポジティブな循環を生み出せているんだよね。
ーーでも今の時代、貧困は発展途上国だけの問題ではないよね?
シェー まさに日本のマネージャーとその件について話していたところでさ。実はロサンゼルスの貧困層が多く住むスキッドロウを対象に、女性保護支援を目的とする特別なバッグを日本で販売する予定なんだ。バングラデシュに生産拠点を求めたように、「アポリス」には貧困問題に少しでも力になりたいという背景がある。スキッドロウの女性保護センターは自立支援を促してホームレスをなくそうと指導しているんだけど、そのビルは僕らのオフィスの近く。何かサポートできれば良いなと思っていたんだよね。
ラーン 貧困格差は酷くなる一方だから、僕ら自身がレベルの高い雇用を確保するためにも、職のない人に職業訓練をしたり、雇用を生んだり、力をつけていくスタッフに十分な賃金を提供できるような仕組みが作れると良いと思うんだ。ほら、僕らのフィロソフィーは地球市民でしょ。最近は一国主義という言葉もあるけれど、僕らは国内だけしか見ない内向きな会社ではなく、グローバル市民としてビジネスを行っていきたいんだ。
ーー自然環境について思うことはある?

シェー こうして話している今でもアマゾンの山火事は続いているよね。カリフォルニアでも毎年のように山火事は起きている。海はプラスチックごみの問題を抱えているし、アラスカでは氷河が後退し、世界的に気候変動が起きているという話もある。そうした大きな問題を解決するのはなかなか難しいけれど、「アポリス」としてはスタンスを変えることなく、バングラデシュの素晴らしいジュート素材で、10年先でも使っていられるバッグを作っていきたいと思ってる。そのバッグを作れる環境や自然に対して敬意を抱きながらね。
ラーン アウターノウンのクリエイティブディレクターのジョン・ムーアが面白いことをいってたよ。プラスチックを使った製品を消費者は手に取るかどうか、またその製品は今の時代において悪いデザインなのかどうか、このことを僕らは常に考えないとならないって。デザイナーたちはプラスチックが環境に良いか否かは理解しているはずだからね。そのうえでビジネスと向き合い、使用素材などを決断していくことになる。でもジョンが言いたいのは、そういった選ぶ素材とそれに見合うコストの組み合わせを考え続けたいというのではなく、どうすれば根本的にデザインが良くなるのかについて追求すべきだ、ということなんだよね。ちょっと哲学っぽいんだけどさ。
ーー彼もサーファーだけど、カリフォルニアのサーファーは自然と環境への意識が高くなるのかな。
シェー 海で遊ばせてもらってるんだから、当然と言えば当然だよね。
3/3

次の記事を読み込んでいます。