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2019.10.19

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格闘家・青木真也。嫌われ者と呼ばれる彼が今伝えたいもの

2019年10月13日。日本の国技・相撲の聖地として知られる両国国技館に、その男は立っていた。アジア最大の格闘技イベント「ONEチャンピオンシップ」の舞台である。ウルフルズの人気曲「バカサバイバー」を口ずさみながら花道を通ってケージのなかに入ると、リングアナウンサーの甲高い声が場内に響きわたる。
「シンヤー、“トビカンジュウダーン”、アーァオキ!」
ウルフルズの人気曲「バカサバイバー」を口ずさみながら入場する青木真也選手。
この選手紹介で、会場に訪れた観客が一気に沸き立つ。どこからともなくコールが沸き起こる。
「アァオキ! アァオキ! アァオキ!」。
場内の照明が消えたかと思うと、暗闇のなかから浮き上がるように丸いケージだけが照らし出された。ケージのなかは、雌雄を決する2人のアスリートと、その一戦を裁くレフリーだけしか入ることの許されない特別な空間だ。
観客は固唾を飲んで、ケージ内を見守る。心臓が暴れ出し、血液が激しく波打つ。聞こえないはずの音が、頭の奥に響きわたっている。そこに集まった観客たちの体内を脈打つ鼓動までもが外に溢れ出し、場内に異様な空気を作り出しているようだ。
選手同士がケージ中央に集められ、顔を合わせたら、試合前の儀式は終了だ。

カァーン!
冷たい金属音が鳴り響き、待ちに待った試合が始まった。観客席にいた人たちのボルテージはすでに最高潮に達していた。
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孤独の歴史が独自のスタイルを確立した

この日、両国国技館の中央に設置されたケージのなかにいた男の名は、青木真也(36歳)。
これまでプロ通算54戦ものキャリアを積み上げてきた総合格闘家だ。PRIDEやONEチャンピオンシップなど、世界最高峰のメジャー団体で戦い、多くの勝ちを積み重ね、手痛い負けも経験してきた。打撃を得意とする選手が多い昨今の総合格闘技の世界で、寝技にこだわり続けてきた異端の格闘家でもある。
特に、飛びついてからの関節技があまりにも芸術的であることから、ついた異名は「跳関十段」(素早く相手に跳びついて関節技を極めるという意味)。その独特のスタイルは、幼い頃から歩んできた男の歴史が育んだものだった。

幼い頃から、じっとしていることができず、先生の言うことが聞けなかった青木は、クラスでも問題児扱いされる少年だった。周りと馴染むことができずクラスメイトとは喧嘩ばかり。給食は一人で食べ、夏休みに遊びに行きたくても一緒に遊ぶ友達もいなかったという。
そんな孤独を味わっていた青木にとって、小3から始めた柔道に集中しているときだけが唯一の救いの時間だったそうだ。
決して才能に恵まれたわけではなかったが、大好きな柔道を続けた青木に転機が訪れたのは、中学2年生の時だった。
団体戦で補欠だった青木は「センスがない」「お前には期待していない」と指導者から、はっきりと突き放された。どうしたらレギュラーになれるのか。このとき青木が出した答えは、誰も知らないような新しい技を繰り出すことだった。
知らない技なら、誰にも対応されることはないからだ。それに気づいた青木は、部活動以外にも、街の道場に通いながら、新しい技を次々に覚えていったそうだ。
通常、柔道では、相手を投げて勝つのが王道のスタイルだ。だが青木は、いきなり関節技を仕掛ける変則的なスタイルをとった。それを邪道と批判する声は常にあったが、そんな周囲の声に流されることなく、自分だけのスタイルに磨きをかけていったのだった。
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