キックボクシングは渡辺さんの生活に多くの恩恵をもたらした。
「全身の筋力や持久力、体幹にも効果がありますが、メンタル面のメリットも大きい。まずは仕事に対する集中力。スパーリングでは、自分を倒そうと向かってくる相手がいるわけですから、相手の一挙手一投足に全神経を集中しなくてはなりません。練習のあとは心がニュートラルになって、仕事がはかどります」。
「そして相手に向かっていく闘争心は、仕事に対する前向きな姿勢にもつながります。相手の心を読む力も培われました。試合やスパーリングでは、相手の嫌がることを見抜いて、そこを狙っていくんですが、相手が嫌がることがわかるということは、相手がしてほしいこともわかるということ。これは礼儀や心遣いにも通じるものがあり、ビジネスでも役に立っています」。
ちなみにキックボクシングを始めたのは42歳のとき。柔術でカラダを鍛えていたものの、一から格闘技を学び始めるのには相当な決意が必要だったはず。
「周囲には『今更よくやるな』と驚かれましたが、僕からすれば、正反対。『今しかチャンスはない!』という気持ちでした。だって年を取ると、肉体的にも精神的にもだんだんできることが少なくなっていくじゃないですか。
そのとき考えたのは、『キックボクシングに本気で取り組めるのはおそらく50歳半ばくらいまで。今42歳だから……うん、あと15年もあるじゃないか!』ということ。時間がもったいないから、悩んでいる暇なんてありませんでした」。
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