思い描くのはパラスポーツの未来である
トップ選手3人を表現した卓球台の実物は、予想以上の影響をもたらした。現在、多くの小学校でパラアスリート実習が行われているが、子供たちに直感的に選手のすごさを知ってもらうきっかけになっているという。
「この卓球台を使って実際に対戦をしてもらうと、パラ側のコートに立った子は、最初は全然返球できません。そこで、観客となる子供たちもふた手に分けて応援してもらうんです。そうすると不利な状況であるパラ側のコートの子が点を取ったりしだすんです。この台は選手のチャレンジや障がいを自分の感覚としてわかってもらえるだけでなく、応援が選手の力になるということも一緒に理解してもらえます」。
2018年11月に武蔵野の森スポーツプラザで行われたパラフェスでは、リオ五輪・卓球男子団体で銀メダルを獲得した吉村真晴選手が、岩渕選手と対戦。吉村選手が、岩渕選手の障がいを現した左サイドが長いコートに、岩渕選手が健常者側のコートに立ち、戦った。これで障がいのハンデはイーブンだ。
「この台があれば、障がい者と健常者の真剣勝負ができるんです。惜しくも負けましたけど、試合後、吉村選手が“岩渕選手のすごさがわかりました”って、僕らがいちばん言って欲しいコメントをくれました(笑)」。
ただし、健常者への訴求だけで終わらせるつもりはない。立石さんが思い描くのは障がい者の未来だ。
日本人にとって卓球は競技でもあり、娯楽でもある。老若男女が場所を問わずできるスポーツで、それこそが障がい者にとっては大切だという。障がいを持つ子供たちにいきなりバスケやテニスをやろうと言ってもハードルが高い。でも、卓球ならば病院で暮らす子供たちでもできる。
「机があってボールがあれば、ネットはペットボトルを並べたっていいし、ラケットはスマホでもいい。卓球はどんな人にも取り組みやすいスポーツだと思うんです。
以前ある病院で、スポーツをしたことがない、できないと思っている子供たちに卓球を教える機会があったのですが、“君が今やっていることはスポーツなんだよ”っていうと、みんなすごく笑顔になるんです。
そうやって卓球での成功体験を入り口にして、進む道を自分で選んでほしい。パラリンピックは、そうした他競技の協会と連帯を強めるいい機会でもあると思っています」。
「妄想をするのが好き」という立石さんのアイデアは枯渇することがない。きっと今後も、我々の想像を上回ることを仕掛けてくるだろう。だから、パラ卓球から目が離せない。
パラ卓球公式サイト林田順子=取材・文