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どうしたら面白さをわかってもらえるのか

2020年、東京でパラリンピックが行われるというのは、どの団体にとっても自分たちの存在、競技の魅力を伝える絶好のチャンスである。この気流に乗りたいと思うのが当然であるし、逆を言えばこのチャンスを逃せば、その後の広がりは一層厳しいものになる。
立石さんもいろいろなアクションを起こした。だが、大きく何かが変わるということはなかった。どうしたらいいのか。考えついた答えがパラ卓球協会のリブランディング。その第一弾として取り組んだのが、キービジュアルの一新だった。
「なんでも第一印象って大事じゃないですか。僕の本業は額縁屋で、日頃から“作品をいかに引き立てるか”を考えています。だからこそ、外見が輝くことも両方必要だと思っているんです。ファッション誌をなぜみんなが読むかというと、それは服で自分を格好良く見せたいからですよね。TOKYO 2020 パラリンピックに向けて、まずは外見を輝かせた方がいいと思ったんです。障がいにフォーカスをするのではなく、彼らはアスリートなんだという大前提に立って、選手として格好良く見せたい。だから、オリパラのどの競技団体よりも際立つ見せ方にしたかった(笑)。中途半端じゃいけないなって」。
今でも根性論で語られることがある日本のスポーツ界では、保守的な意見も多い。だが日本肢体不自由者卓球協会の畠山講史郎 会長は理解があった。
「相談したら、やったらいいと。だけどお金はないよって(笑)」。
そのときの広報予算はわずか30万円。失礼を承知で言えば、最低限の撮影をするのもギリギリの予算だ。そこで生きたのが、額縁屋の経営者としての立石のネットワークだった。
「公私ともにお世話になっている方に紹介していただいたのが、グローバル企業のCMなどを手掛けているプロデューサーだったんです。彼に、自国開催のパラリンピックを成功させたい、もっと選手を格好良く見せたいと伝えたところ、意気投合して『一緒にやろう!』と言ってもらえたんです。予算はありませんでしたが、チームが構成されて、さらに賛同してくれる人たちが集まって、あのビジュアルはできあがりました」。
パラリンピック卓球の大会パネル
大会で使用されたパネル。写真のコラージュなど、かなりエッジィなデザインだ。
プロのヘアメイクが入り、一流のスタッフが撮影をする。その経験は選手たちも喜ばせた。
「パラ競技の選手は観られることに慣れていません。でも、2020年の本番で自信を持ってプレーするためにも、自分たちは日本代表なんだって自覚を持って、もっとポジティブになってもらいたかった。戦っているみんなは、すごく格好いいのですから」。
ときに熱は伝播する。予算、スケジュール、時間……ビジネスシーンで重視されるあらゆることを飛び越えて、チームは次のプロジェクトへと進む。

「最初はキービジュアルだけだったんですよ。でも、みんなの心に火がついてロゴの刷新から、ホームページのリニューアル、そしてパラ卓球台プロジェクトへと繋がっていったんです」。


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