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2019.10.02

あそぶ

パラ卓球の公式サイトが超エッジィ! “格好いい”の追求にはある想いがあった

一般的なパラスポーツへのイメージの多くは、道徳的なものだろう。ところが今年8月、パラ卓球協会が更新したホームページは度肝を抜くようなものだった。
パラ卓球協会が更新したホームページ
黒ベースでクールなデザインの公式サイト。2019年8月にリニューアル公開された。
黒い背景のなか浮かび上がる選手、彼らが動く軌道は青く発光し、その目線は挑むような鋭さを帯びている。弱者と捉えられがちな障がい者の姿はそこにはない。
このホームページを仕掛けたのが、日本肢体不自由者卓球協会で広報を担当する立石イオタ良二さんだ。

パラ卓球のナショナルチームの選手である立石アルファ裕一選手を兄に持ち、大学まで自身も卓球の競技者であった立石さんは、パラ卓球のコーチも務めている。そして本業は、来年創業100年を迎える額縁屋の四代目である。
「四代目というと聞こえはいいですが、5人兄弟でみんなの学費もあるし、財布に1000円もない日もあったんですよ。同世代の経営者などと比較して劣等感を感じるときもありました。また、大学を卒業するときには実業団や日本リーグからもお誘いをいただいたのですが、家業を継ぐために競技の道を諦めたこともあって、不完全燃焼による喪失感も感じていましたね」。
転機となったのは兄のコーチとして帯同した海外遠征だった。両手を失った選手が口にラケットを加えてプレーする姿を見て心を打たれた。
「感動でも、哀れみでもなく、涙がボロボロと溢れ出てきて。彼らがこんなにできるなら、五体満足な僕には可能性しかない、なんでもできるんだと、劣等感や喪失感がスポッと消えてなくなったんです。僕らは手がない、足がないって思っている彼らには、同じ世界を生き抜く強さがある。僕は、パラアスリートはスペシャルニーズだと思っているんです」。
この魅力をどうしたら世の中に伝えられるのか。スポーツ分析などを行う「ニールセンスポーツ」の統計(2017年)によると日本人でパラスポーツ観戦経験があるのは、わずか1%だったという。
「周囲や企業にヒアリングをすると、健常者のスポーツの方が面白い、パラ競技の面白さがどこかわからない、という意見が多かった。結局、共感ポイントがないということなんですよ」。
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どうしたら面白さをわかってもらえるのか

2020年、東京でパラリンピックが行われるというのは、どの団体にとっても自分たちの存在、競技の魅力を伝える絶好のチャンスである。この気流に乗りたいと思うのが当然であるし、逆を言えばこのチャンスを逃せば、その後の広がりは一層厳しいものになる。
立石さんもいろいろなアクションを起こした。だが、大きく何かが変わるということはなかった。どうしたらいいのか。考えついた答えがパラ卓球協会のリブランディング。その第一弾として取り組んだのが、キービジュアルの一新だった。
「なんでも第一印象って大事じゃないですか。僕の本業は額縁屋で、日頃から“作品をいかに引き立てるか”を考えています。だからこそ、外見が輝くことも両方必要だと思っているんです。ファッション誌をなぜみんなが読むかというと、それは服で自分を格好良く見せたいからですよね。TOKYO 2020 パラリンピックに向けて、まずは外見を輝かせた方がいいと思ったんです。障がいにフォーカスをするのではなく、彼らはアスリートなんだという大前提に立って、選手として格好良く見せたい。だから、オリパラのどの競技団体よりも際立つ見せ方にしたかった(笑)。中途半端じゃいけないなって」。
今でも根性論で語られることがある日本のスポーツ界では、保守的な意見も多い。だが日本肢体不自由者卓球協会の畠山講史郎 会長は理解があった。
「相談したら、やったらいいと。だけどお金はないよって(笑)」。
そのときの広報予算はわずか30万円。失礼を承知で言えば、最低限の撮影をするのもギリギリの予算だ。そこで生きたのが、額縁屋の経営者としての立石のネットワークだった。
「公私ともにお世話になっている方に紹介していただいたのが、グローバル企業のCMなどを手掛けているプロデューサーだったんです。彼に、自国開催のパラリンピックを成功させたい、もっと選手を格好良く見せたいと伝えたところ、意気投合して『一緒にやろう!』と言ってもらえたんです。予算はありませんでしたが、チームが構成されて、さらに賛同してくれる人たちが集まって、あのビジュアルはできあがりました」。
パラリンピック卓球の大会パネル
大会で使用されたパネル。写真のコラージュなど、かなりエッジィなデザインだ。
プロのヘアメイクが入り、一流のスタッフが撮影をする。その経験は選手たちも喜ばせた。
「パラ競技の選手は観られることに慣れていません。でも、2020年の本番で自信を持ってプレーするためにも、自分たちは日本代表なんだって自覚を持って、もっとポジティブになってもらいたかった。戦っているみんなは、すごく格好いいのですから」。
ときに熱は伝播する。予算、スケジュール、時間……ビジネスシーンで重視されるあらゆることを飛び越えて、チームは次のプロジェクトへと進む。

「最初はキービジュアルだけだったんですよ。でも、みんなの心に火がついてロゴの刷新から、ホームページのリニューアル、そしてパラ卓球台プロジェクトへと繋がっていったんです」。
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