OCEANS

SHARE

“ケア”に欠かせないのは観察力とコミュニケーション

エディさんは常に、選手たちの体や心のケアついて、目を光らせていたというわけだ。そのために何よりも欠かせないのが観察力だという。
「今、メンバーがどのようなステータスにあるのかを見極めるのが、非常に重要な仕事。普段はどのような振る舞い、服装はどうかなど、常に観察して把握していなければ、いつもと違うかどうかも見極められないですよね。ケアというのは究極のところ、1人ひとりとの関係づくりにあると思います。

その人物の行動を変えるには、何が最も影響を及ぼすか? そういった人物のディテールを知るには、コミュニケーションしかありません。話し言葉によってのコミュニケーションだけでなく、紙に書いたメッセージがいい人、ビジュアルを見せたほうがいい人、さまざまです」。
かつての自身がHCを務めたチームで起こったコミュニケーションに関するエピソードを教えてくれた。それはチーム躍進の立役者となった選手について。
「彼は、チームに入ってまもなく、練習にあまり身が入っていないように見えました。彼自身、そのことを自覚していたんでしょうね。“今度、話そう”と私が声をかけたとき、きっと私から怒られるだろうと思ったようです。その“今度、話そう“という機会までの数日、特段口も聞かず、そのままにしていました。そして、その機会を迎えます。
夕食を食べました。まったくラグビーの話はしないで、プライベートの話ばかり。ただ最後にひと言、『君は態度を変えていかないといけないよ』と告げました。最初から、彼は何を言われるか、わかっていたわけです。自分の課題を理解していたのですね。結果、翌日の練習から彼はガラリと変わりました」。
エディさんはその選手に、いちいち「あれをこうしろ、これをああしろ」とは言わなかったのだ。送ったのは無言のメッセージ。
「ただし敬意を忘れてはいけません。コーチと選手は対等なもの。互いに良い関係を築いて、自分で関わり、気づいて実行してもらう。そのためにもヴィジョンを共有して同じ目標に向かうことが大切です」。
選手のケアに必要なコミュニケーションにおいては、「伝えたいことをきちんと伝える」ことも怠ってはいけないという。

「私のルールでは、要点は3つまで、にしています。100の間違ったことがあっても、とにかく3つに絞る。人は、大概3つ以上のことは覚えられないからです(笑)。とにかく、複雑なことはシンプルに伝える。世の中のことは突き詰めれば大抵シンプルですから」。
“きちんと伝える”行為には時として、選手であれば耳を背けたくなる話もあるだろう。それを聞くのもストレスかもしれない。それでもエディさんは、伝える。
「『嫌われる勇気』という本が日本でも人気ですよね。ヴィジョンの遂行のためにも、いいリーダーは、嫌われる勇気を持たなければなりません。人に好かれようとしてはいけません。ここに必要なのが、相互の信頼関係。コーチと選手が対等であるために、互いに敬意を持つことが求められます。何より相手から依頼されたタスクを全力でこなすこと。次にこちらが何かタスクを依頼したときには、より多くの成果を返してくれるかもしれません」。
ラグビーは紳士のスポーツ。成熟した男たちの敬意のこもったコミュニケーションこそ、ヴィジョンの達成に大きく貢献するのだ。
4/5

次の記事を読み込んでいます。