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最後の最後に勝負を分ける精神力
海外オリンピアンたちの“根性論”

日本のスポーツ界で近年よく囁かれるのが、“根性論”の否定だ。何事もハードな練習に耐え、乗り越えたところに成功や勝利があること。指導者が選手にひたすら長時間の練習やトレーニングを課し、ときに暴力も伴う理不尽なシゴキを続け、怠けだと言って休みも与えない。そんな前時代的スポーツの風景は、いまや過去のものになりつつある。
ただ、だからといって「根性」、いわば精神力のすべてが否定されているわけではない。いくら科学的根拠に基づいた効率的なトレーニングで肉体を鍛え、技術を磨いても、最後の勝負所の必要なのは「勝ちたい」「負けたくない」「諦めない」という気持ちだと、多くのトップアスリートが語っている。
そして、その力は限界に挑戦し、困難に耐え、厳しいトレーニングなど自らに与えた課題を最後までやり抜くことで養われる、とも。英語ではそういった力を「グリット(grit)」と呼ぶことがあるが、その意味はまさに「根性」に近しい印象である。
つまり“根性論”の否定とは、「根性」をつけるために取り組まれる、日本の前時代的方法論の否定であって、「根性」自体を否定するものではないのだ。実際、世界の五輪メダリストたちの名言の中にも、彼らが決して「根性」そのものを否定しているわけではないことがうかがえる言葉がある。
「もしあなたがやり切ったと思うなら、少なくともさらに40%はできるよ」
2008年北京五輪 2012年ロンドン五輪 2016年リオデジャネイロ五輪 女子フィールドホッケー代表 ローレン・クランドル(アメリカ)
「私が練習に疲れたとき、自分に私は疲れていないと言い聞かせる、だから、もっと自分を追い込むことができる。もしあなたが疲れた、もうダメだと自分に言い聞かせたら、体はその言葉通りになる」
2012年ロンドン五輪 女子陸上短距離100mハードル・銅メダル ケリー・ウェルズ(アメリカ)
どうだろう? まさに「根性」的な言葉ではないだろうか。
海外のアスリートと「根性」はミスマッチな印象も受けがちだが、彼らの中でもトップを走る人間は凄まじいまでの「根性」の持ち主である。成功する人間が、人並み外れた努力をすることに洋の東西は関係ない。
「厳しい練習にとって代わるものなど存在しえない」
1996年アトランタ五輪 男子テニス金メダル アンドレ・アガシ(アメリカ)
写真:ロイター/アフロ
前時代的方法論による“根性論”が過去のものとされていく日本。だが、根性そのものは決して否定すべきものではないことを、来年我々は目の当たりにするのかもしれない。
 
田澤健一郎=編集・文


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