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「オリジナル」の人間であることを求めて


江島の泳ぎを見ると、麻痺している左半身はほとんど使わず、右半身だけで前へ進んでいることがわかる。普通に考えれば左に曲がってしまうはずだが、江島の泳ぎは、一本の糸を引くよう、まっすぐに進む。
江島が水泳に復帰した当時、片麻痺で水泳に取り組んでいる選手はいなかった。前例がないなかで、江島はどのようにして今の泳ぎを体得したのだろうか。
「一般的に泳ぎには、理論とそれに基づいた理想的なフォームがあります。当初は動かない左半身をなんとか動かして、そのイメージに一生懸命近づけようとしていました。でも、そんなの無理なんです。だって障がいを負っているんですから。それに気づいたのは、高校3年生の頃ですね。
だから、これまでの江島大佑という概念を壊して、“今の江島大佑”をゼロから作り直そうと思いました。例えば、左腕は少し動くけど、こんなものだと。こうして常識も全部取っ払って、トライアンドエラーを繰り返すようになりました」。
戦う相手を 「今の江島大佑」に変えたときから、江島の泳ぎは変化を遂げた。残された体を活かし、自分だけのオリジナルの泳ぎを作り上げていったのだ。そして江島は、「国内無敵」と呼ばれる、日本屈指のパラ水泳選手に成長した。
 

江島大佑が教えてくれること


江島は、いまだに健常者の自分が走り回っている夢を見ることがあるという。そして今でも、潜在意識にたびたびあらわれる「過去の江島大佑」をかき消しながら、生きている。そんなオリジナルの江島大佑に込められた決意が、「今の江島大佑」の身体を強く、そして速く前へと運ぶのだろう。
「失われたものを数えるな。残っているものを最大限に活かせ」ーー。
これは、パラリンピックの父と言われた、フリードリッヒ・グッドマンが残した言葉だ。前例がないなかで、オリジナルの泳ぎを作り上げた江島の姿は、まさに、このパラリンピックの精神性を体現するものだ。
「障がいを負った結果、人生は変わりました。その時点でイレギュラーな人生なので、常識は当てはまらないんです。もし障がいを負わなければ、アスリートになっていなかったと思います。だからこれからも、オリジナルの江島大佑を生きるつもりです」。
江島は、自分の泳ぎを通じて、全世界にメッセージを届けるのだ。
「個性を生かし続けろ」と。
 
瀬川泰祐=取材・文


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