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2019.09.26

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「まだ夢の中にいたい」。守護神・川島永嗣(36歳)の終わりなき挑戦

コパ・アメリカで何度もビッグセーブをみせ、所属クラブ「RCストラスブール」との複数年契約を勝ち取ったサッカー日本代表のGK・川島永嗣。最近ではH&Mのアンバサダーにも就任。36歳にして未だに日本の守護神として君臨し、マルチに活躍する川島の“今”に迫った。
赤い悪魔が牙をむく。「ロストフの悲劇」という名の時計の針が動きだす。
その時計は、たった14秒の時を刻んだだけで、ピタリと止まった。ロストフ・アリーナのピッチ上で歓喜に沸く赤い悪魔たち。まるで金縛りにでもあったかのように身動きが取れず、呆然とするサムライブルーの選手たち。
2018年7月2日、ワールドカップ決勝トーナメント1回戦で、当時のFIFAランキング3位の強豪・ベルギー相手に一時は2-0でリードしていたサッカー日本代表。しかし後半のアディショナルタイムで逆転を許し、惜しくも敗退。しかしFIFAが実施したアンケートでこの試合がベストバウトに選ばれるなど、世界中に感動を与えた一戦となった。©Aflo
2018FIFAワールドカップ ロシア大会、ベスト8進出を賭けた「ベルギー代表 vs 日本代表」の一戦は、大方の予想を覆し、日本が2点のリードを奪うことに成功する。
しかし、その後のベルギーの猛攻に耐えきれず、立て続けに失点を許してしまう。そして、同点で迎えた試合終了直前のアディショナルタイム。ベルギーが誇る超高速カウンターにより、日本は痛恨の失点を喫し、2−3で敗戦した。ベルギーの攻撃が始まってから、わずか14秒の出来事だった。
その美しくも残酷な結末は、まるで芸術作品のように、明と暗のコントラストを鮮やかに描き出した。「ロストフの悲劇」「ロストフの14秒」などと呼ばれ、多くの日本人の記憶に深く刻みこまれた。
 

川島が背負ってきたもの


あのとき、世界中の誰よりも最前線でその残酷な現場に立っていたのは、間違いなく日本代表のゴールキーパー・川島永嗣選手だった。
川島は、これまで3大会連続でワールドカップに出場するなど、日本を代表するゴールキーパーとして日本のゴール前に君臨し続けてきた。川島が日本代表で積み重ねてきた出場試合は90。2010年からは海外リーグで活躍を続けるなど、その豊富な経験と実績は、ほかのライバルたちの追随を許さない。
そんな川島を目の前にし、リアルタイムで観ていた、あのときの気持ちが蘇る。
「頼む、川島!」。
人はいつだって身勝手なものだ。困ったときだけ神様にお願いをする。これまでも長い間、日本のゴールを守り続けてきた守護神に、何回願いを託しただろうか。あのときもまた、サムライブルーに襲いかかってくる赤い悪魔の恐怖を目の当たりにし、僕らは、いつもの神頼みをするしかなかった。
かくして日本国民の願いは、守護神・川島に託された。サムライブルーの選手たちは、必死の形相で自陣に戻っている。だが、超高速でスプリントする赤い悪魔たちにはわずかに届かない。すでに4名の赤い悪魔たちが、日本陣地の奥深く、ペナルティエリアの中に侵入してきていた。
川島は、目の前に迫った赤い悪魔に対し、焦ることもなく、怯むこともなく、低い姿勢で勇敢に身構え、適切なポジションを取る。サムライブルーを仕留めようとゴール前に詰めていたナセル・シャドリが左足でシュートを放つ。同じタイミングで、川島は、自らの両足で地面を蹴り上げ、勢いよく自らの身体を真横に投げ出した。185cmの大きな身体が引きちぎれそうになるほど、伸びている。
ボールは、必死に手を伸ばした川島の右手のわずか先を、あざ笑うかのようにすり抜けると、瞬く間に日本ゴールに吸い込まれていったのだった。


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