>連載「いま乗りたい、俺たちのチャリ」をはじめから読む実用品である乗り物は、人や荷物を載せて運ぶという用途を備えていなくてはならない。それはチャリも然り。車に比べて制限されるが、「買い物に使いたい」「子供の送り迎えに必要」などといったところだろうか。
そのあたりを突き詰めると、いわゆるママチャリになる。すると途端に平凡な印象に……と思いきや、カスタム次第でユニークなスタイリングも可能なのだ。
そのことを証明してくれたのが、アートディレクターのTSUNEさん(42歳)。7年前、最初の子供が1歳になったのを期に組み上げたこだわりのeバイクがコチラだ。
フレームと電動ユニット以外、ほぼ総とっかえのカスタム!
「電動アシストを乗ろうと考えたとき、どれも似たり寄ったりな感じの中、オールドスクールライクなBMXだったら、子供を乗せても可愛いと思って、フレームの形状からパナソニックの『EZ』をベースにしたら作れるかなと(EZについては
過去記事参照)。CGでシミュレーションしながらやりました」。
2007年にFIXEDバイク(いわゆるピストバイク)に乗り、チャリを組む楽しさに目覚めたというTSUNEさん。仲間とともに始めた自転車愛好家集団「PEDALMAFIA(ペダルマフィア)」の活動の一環で『PEDAL iD』という自転車カスタムのシミュレーションウェブアプリを公開、また実車同様にカスタマイズできるフィギュアを開発したりなど多種多様な経歴の持ち主だ。
本人が「“何でも屋”なんです」と語るように、もとより本業であるアートディレクター以外にも音楽・空間・立体物の造形と活動の幅が広いため、イメージを形にする作業はお手のもの。こちらのマシンもそんな流れから“KUSTOM”を施した。
e-bike kastum
TSUNEさん提供の設計図。車両含め、すべて原寸サイズ・比率で各パーツで作画。見た目の確認以外にも、実際に組み込む前に問題を洗い出せる点でメリットが大きい。
現在のモデルの設計図。2人目の子供も乗れるようになっている。
「純正で残っているのはフレームとドライブユニット、バッテリーくらいです。バッテリーのステッカーも一見純正に見えると思いますが、それっぽくわざわざ作り直しました(笑)。塗装はもちろん、タイヤもブレーキもハンドルも、何もかも自分で替えています」。
ブルーのチェーンもオールドBMXを演出するため。合わせて1982年製のタカギのクランクもインストール。さらにハンドルも当時もののヴィンテージパーツ”Skyway EZ handle bar(スカイウェイ イージーハンドル バー)”だ。
こだわるならどこまでも。レアパーツもふんだんに採用
「こだわるなら徹底的に当時のものをと考えました。わかる人にはもったいないと思われるかも? スタイルだけ見ればいくらでも似たようなハンドルを探せると思うんですが、使える箇所はオリジナルでという美学を貫いています。車両はオリジナルじゃないのに(笑)」。
とくに苦労したのが、全体のイメージ。80年代の映画『E.T.』に出てくるBMXを目指した。スカイウェイという当時の人気ブランドをイメージソースに、オールドスクールな見た目を残しつつ実用性も両立させた。
「カゴも悩みました。通常であれば『E.T.』のようなプラのカゴをつけそうなもんですが、実際駐輪したりすると意外に邪魔だったりするんで(笑) 」。
折り畳みが可能で実用性と違和感のなさを考えていろいろと試して選んでいったら現在のアイテムに落ち着いたそう。カゴの骨組みも、シルバーだったものを自身でリペイント。合わせてブレーキケーブルやシフターケーブル、各種配線も一度全部バラして変更済みだ。
「飽きたらバスケット部分を縫製し直せば好きなように色も変えれるし。……何か手を入れないと納得できないんですよね。でもすべてが現物合わせで組んで行くので簡単にはいきませんでした」とTSUNEさん。
フロントのキッズ用シートはリアと合わせるため、接合部分を延長し、装着。しかし、すべてのパーツを外せば普通の電動チャリにもなるし、将来子供にも譲ることもできる。
かくして保育園児と小学3年生のお子さんを持つだけに、子供たちを乗せるための“自己満KUSTOM”が実現した。子供たちを送り迎えすると、周囲の園児からはそのインパクトに「すご〜い」と歓声が上がるとか。よく街で「どこで売ってる自転車ですか?」と質問されるらしいが、毎度説明に困るという。
自転車カルチャーがわからずとも目を引くという点では、カスタムは大成功といえるだろう。なにせそこに正解はない。チャリカスタムは、どこまでも自由なのだから。
小島マサヒロ=写真 吉州正行=取材・文