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実店舗なりの価値のつくりかたを
しかし、なにかとリスクのある実店舗経営。ネットショップ最大手のアマゾンに長年いた角田さんが、実店舗にこだわったのには何か理由があったのだろうか。
「経験を活かしてネットショップを運営することは僕にとってイージーなことだったでしょう。ネットショップであれば固定費も安く抑えることができ、リスクは少ない。でもネットショップだったら、今頃、店はとっくになくなっていたんじゃないかと思います」。
例えばカセット一つひとつにアマゾンのような詳細な商品ページがつき、豊富な品揃えを誇ったとしても、そのネットショップは儲かるだろうか。
角田さんの答えは「NO」だ。直接、足を運び、目で見て触って、耳で聴いて……「ワルツ」がカセットテープの豊かさを体感できる場所だからこそ、人が集まるのだという。そして角田さんの美意識と愛情が伝わるこの場所を介在するからこそ、カセットテープはまた人の手に渡っていく。
「アマゾンが実店舗を潰した……なんて言われることもありますが、僕は実店舗には実店舗なりの価値の出し方があると思う。実際、ワルツは実店舗だからこそグッチ プレイスに選ばれたり、感度の高い方に訪れていただいたりしています。僕はワルツで、現代の実店舗の価値のつくり方の成功事例を示したいんです」。
実店舗での販売にこだわったからこその化学反応、そして角田さんなりの「実店舗での価値のつくり方」があったからこそ、無謀なビジネスモデルと思われたワルツは世界のカセットテープカルチャーの中心となりえたのだ。
角田さんは自身のビジネス継続が今後のカセットテープ自体の価値を左右するという、大きな責任を抱えながら日々の仕事に向き合っている。
「ビジネス的に注目を集めてひと儲けしようなんてまったく思っていないんです。なにより大前提にあるのは、好きだから。それだけです」。
常に落ち着き、冷静に自身を俯瞰している印象の角田さん。そんな彼が胸を熱くするカセットテープの底知れない魔力は、これからも人々を虜にし続けるのだろう。
 
藤野ゆり=取材・文


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