退職後5カ月で店をオープン2015年3月、アマゾンを退職。44歳だった。ひと月後には法人化し、もともと工場だったという貸し倉庫を店舗にすることを決めた。中目黒を選んだ理由はとてもシンプルなものだ。
「生まれも育ちもこの辺なんです。いい物件に巡り会えたことも大きかったですね。倉庫として貸しだされていた場所だったので賃料が安く抑えられた」。
オープンに際していちばん大変だったことは? と聞くと、苦笑する。
「とにかく値付けです。ひとつひとつ商品をパッキングして値段をつけて……これを店内すべてのカセットテープにやるんですから。妻と何日かかるの! って嘆きました。徹夜も1日じゃ足らなかった」。
そんな苦労も、今となっては笑い話だ。こうして2015年8月、お盆のど真んなかに、角田さんのお店は静かにオープンした。ホームページもSNSでの宣伝もない。なにも営業活動をしないなかでのひっそりとした開店だった。
しかし「世界で唯一のカセットテープ専門店」の噂を聞きつけ人が集まってくるのに、そう時間はかからなかった。雑誌の取材が舞い込んできたのは、店を開けて1カ月もしないころ。そこから現在に至るまで、ワルツとそのオーナーである角田さんにはメディアからの出演依頼が絶えない。
「もちろん話題性だけでは食べていけません。駅から離れたこの場所に、音楽を愛して、目的意識を持ったお客さんが日本だけじゃなく世界中から来てくれるということは本当に嬉しいですね」。
角田さんの音楽への愛情は音楽ファンだけでなく、アーティスト本人の耳にも届いている。名前を出せば驚かれるような超大物アーティストも足繁く通っているという。つまり、ワルツは結果的に大成功を収めているのだ。
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