旨い酒を知ることはもちろんだが、上手い酒の飲み方もそろそろ知っておくべき40代。シチュエーション別“スマートな酒のマナー”を、店と街の人たちに聞いてきた。
BAR、和食店に続いて第3回目は、広大な日本庭園と豪華な施設が圧巻の超高級老舗「ホテル椿山荘東京」を訪問。ホテル内にあるイタリアンレストラン「イル・テアトロ」でソムリエを務める露木崇浩(つゆき たかひろ)さんに、正しい作法を聞いた。
全オッサン要注意! 「とりあえずビール!」はダサい!?
——高級なイタリアンやフレンチは、行き慣れていない身としてはやはり構えてしまいます……。こちらとしてはリラックスしていただきたいのですが、やはり肩肘張ってしまいますよね。緊張されているなかで「何を飲みたいですか?」と聞かれても、冷静に答えられる方は少ないかもしれません。
でも、
基本的にビールを最初に飲むというのはフォーマルな場ではよろしくないかと思います。もちろんオーダーがあればご用意はしますが、やはりアペリティフ(食前酒)なら
シャンパンやシェリー酒、ほろ苦いカンパリソーダがオススメです。華やかな乾杯に合うのは、やはり、華のあるお酒だと思います。
——最初からワインというのもOKですか?問題ありません。炭酸が苦手な方もいらっしゃるので、アペリティフからワインを頼まれるケースもままあります。一応、“敷かれたレール”はあるのですが、それに乗らなくても決して間違いではありません。
——“敷かれたレール”とは?4〜5人での会食の場合は、食前酒に
スパークリングを嗜まれたあと、白ワイン1本、赤ワイン1本をそれぞれ注文し、調理や好みによって杯を重ねる、というのが定番です。
魚料理に白ワイン、肉料理に赤ワインもいいけど、選択肢はさまざま!
——魚料理には白ワイン、肉料理には赤ワインが定番かと思いますが、逆ってありなんですか?ソムリエによって答え方は違うかと思いますが、私は問題ないと思っています。例えば、魚料理に本マグロをレアで仕上げたもの、肉料理に沖縄のアグー豚のような上質の豚肉が出てくるコースの流れだとします。
そこで、最初にミディアムボディの赤ワインを用意し、その後、南の暑い国で作られた濃厚かつ度数の高い白ワインでしたら、さほど違和感を感じないと思います。白ワインの代わりに、最近人気が出始めているオレンジワイン(白ワイン用のブドウで赤ワインの製法で醸造したワイン)もいいでしょう。濃厚なリゾットやパスタにも合いますし、夏は赤ワインが重たく感じるという方にもピッタリかと。
——おお〜……でもそうなると逆にもう種類が多すぎて何がなんだか……ならば、白と赤それぞれ国際品種で2〜3種類ずつ押さえておけば問題ないと思いますよ。
白ワインだと「シャルドネ」「ソーヴィニヨン・ブラン」「リースリング」。赤ワインなら「カベルネ・ソーヴィニヨン」「メルロー」あたりでしょうか。
——5種類なら覚えられそう!「シャルドネ」はフルーティなイメージ。果物でいうとパイナップルとかパッションフルーツとか、南国のニュアンスのもの。「ソーヴィニヨン・ブラン」は結構ドライです。キリッとした飲み口で酸がやや強めでしょうか。レモンやライムのような香りが特徴です。「リースリング」は青リンゴやカリンのような香りがありますね。フランスのアルザス地方が有名ですが、甘めのドイツ産リースリングは、甘口が好きな女性にいいかもしれません。
——ふむふむ(メモメモ)。続いて赤ワインですが、「カベルネ・ソーヴィニヨン」は日本人にすごく人気があって、スーパーなどでもよく見かけるほど身近なものです。フルボディで果実味が強いのですが、どうやら「果実味が強い=飲みやすい」という印象を受けるみたいですね。「メルロー」はどちらかという柔らかくエレガントなイメージでしょか。
——ほうほうほうほう(メモメモ)。ただ、
品種やフルボディなどの専門用語よりも、果物などで表現した方がソムリエには伝わりやすいかもしれません。酸味のあるイメージを伝えるならライム、甘みやフルーティさを言いたければチョコレートやパイナップル、マンゴーのような……と表現するのもいいでしょうね。
また、生産地域によっても味わいは変わってきます。
寒いところでは酸味が強くなり、暖かいところでは甘みの強いワインになると覚えておけば、産地の紹介をされたときに味を想像しやすいのではないでしょうか。レストランでメニューを見ながらボトルを選ぶ際の参考にもなるかと思います。
テイスティングは好き嫌いのチェックじゃない! その本当の意味は?
——なるほど、これで僕もテイスティングで玄人感を出せそう。お気持ちは分かります。ただ、よく誤解されているのですが、
テイスティングはそもそも味が美味しいかどうかの確認作業ではありません。——え!? テイスティングは、
中身が劣化していないかをチェックしていただく作業です。状態が悪いと、生乾きの雑巾のような臭いがするケースがあります。もちろん、こちらでも事前に確認はしていますが、ワインに異変がないことをお客様にも確認してもらう行為です。
ですから、ソムリエのように「うーん、これはパイナップルの香りがして……」といったウンチクを言う人は……勘違いされているかと。
——とんだ赤っ恥をかくとこでした……私たちもお客様を立てることが第一優先ですから、その場で間違いを指摘することはしません。しかし、お連れの方も辟易するでしょうから、あまり知識をひけらかすようなことはしないほうがベターですよね。
意外に勘違いされている? 「食事中」の良いマナー、悪いマナー
——食事に関するマナーはいかがでしょうか?例えば、
パスタソースやお肉の脂がグラスについてしまったとき、それを胸元や膝下にかけるナプキンで拭かれる方がよくいらっしゃいますが、これは絶対やってはいけない行為です。服が汚れてしまいますからね。
ですので、
レストランへ行く際はティッシュを持参し、それで拭くようにしてください。使用後は正方形に折っていただいてポケットに入れ、それを何回か使っていただくのがよろしいかと思います。
——テーブルに置かれているワインは自分で注いでいいんですよね?お店によって異なるとは思いますが、
自分の近くにボトルが置いてある場合は“ある程度自分でワインを注いでください”というお店からのメッセージの場合が多いですね。ワインが離れた場所に置かれている場合は、自分でワインを取りに行くのではなく、ウェイターを呼んで注いでもらいましょう。
——ちなみに、ナイフとフォークで気をつけたいマナーはありますか?ナイフやフォークは外側から使う、というのは常識ですよね。そして、食事中にナイフとフォークを置くときはハの字に、食べ終えた際は4時位置にを揃えるというのが一般的です。
そこで、例えばきのこや野菜など、
何か苦手な食材を残す場合ですが、一箇所に集めてフォークの面を下に向け、その下に隠すように置いておくとスマートです。これはもう残しているんだな、というのが分かりますし、見た目的にも綺麗ですよね。
——そ、そんなワザがあったんですか!最後に、
男性が忘れてはいけないのがレディファーストの精神です。レストラン側はいつもレディファーストで動いています。
例えば、レセプションでの対応後、テーブルには女性を先にお通しします。そして我々案内役が先に椅子を引いたほうがそのお店での上位席になりますので、そちらへ女性をエスコートすると良いでしょう。男性が我先にとそこへ座ってしまうのはスマートではありません。
——レディファースト、肝に銘じておきます!! ホテル椿山荘東京を後にし、「露木さんのような紳士になるため、まずはビッとしたヘアスタイルを参考にしよう」と誓い合った取材陣であった。
[取材協力]「イル・テアトロ」住所:東京都文京区関口2-10-8 ホテル椿山荘東京 3F電話:03-3943-5489営業:6:30〜10:30LO、12:00〜14:30LO、17:30〜21:00(コースは20:30LO)https://hotel-chinzanso-tokyo.jp菊地 亮=取材・文