今回の看板娘は札幌出身の由伊さん(33歳)。奥さんではなく独身だった。
「大学入学を機に上京して、卒業後は和歌山県で保育士の仕事をしていました。何となく田舎で働きたかったんです。あと、北海道育ちとしては東京の暑さが辛すぎて。結局、和歌山も暑かったんですが(笑)」
保育士の仕事は4年で辞めて東京に戻り、縁あってこの店の立ち上げスタッフとして働くようになった。保育士時代の園児や父兄とは今でも親交があるという。
由伊さん、料理は何がおすすめですか?
「うちのシェフが作る料理は本当に何でも美味しくて。個人的にも飲みに来るんですが、最近感動したのは『黒豚のレタス巻き』です」
ここで、由伊さんが胸に付けているネームプレートが目に入った。
「あ、でも今なら熊本の千興ファームから取り寄せた新鮮な馬刺しも美味しいです」
最終的には、「さくらユッケ」(980円)と「もとかのの気まぐれ唐揚げ」(950円)を注文。
旦那が留守の隣家で奥さんの手料理を食べるかのような背徳感がある。ユッケは文句なしの絶品、唐揚げは懐かしいチューリップ型だった。
料理以上に感動したのが「となりのおくさん」。ソーダで割ると甘みと香りがほどよく立ち上がる。水のように何杯でも飲めそうで、ある意味危険なお酒だった。
ふと、フロアを見ると由伊さんが2人の女性と談笑している。彼女たちは運営チームのスタッフだった。
「となりのおくさん」「いまかの」「もとかの」の命名者は社長だが、田代さんは「駐在員のおくさん」をプロデュースしたという。そして、池上さんはこれらの美しいラベルデザインを担当している。
「駐在員はインバウンド狙いですね。空港の売店に置きたいんですが、なかなかハードルが高くて」(田代さん)
「ラベルのイラストはマウスで描いているんですよ。ペンタブだとあの味は出ないと思います」(池上さん)
なお、田代さんは由伊さんのことを絶賛する。
「よく気が付くし、新人の面倒も見てくれる。何か困ったことがあったら、いつも由伊ちゃんに相談しているんです」
そんな看板娘はおばあちゃんっ子でもある。
「片親だったこともあって、春休みや夏休みはずっと千歳のおばあちゃんちに泊まっていました。家業の焼肉屋をよくお手伝いしたりとか。こないだも帰省したとき、一緒に日帰り温泉に行ったんです」
心温まるエピソードも聞けた。
「半年ぐらい前にふと外を見ると、おばあちゃんが店の外観をスケッチしているんです。『暖簾がきれいだから描いてるの』と言っていて。当時は赤い暖簾だったんです。寒い日だったから店長があったかいお茶を差し入れていました」
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