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2019.05.06

あそぶ

公式映画はただの記録か、芸術か。河瀬直美による“東京 2021”はどうなるか?

FUN! the TOKYO 2020 
いよいよ来年に迫った東京オリンピック・パラリンピック。何かと “遊びざかり”な37.5歳は、 この一大イベントを思い切り楽しむべき。 競技を観るのもするのも、主な拠点となる東京を遊ぶのも、 存分に。2020年の東京を……Let’s have FUN!
日本のオリンピック初参加から、1964年の東京オリンピック開催までの歴史を描くNHKの大河ドラマ『いだてん』に、日本が初参加した1912年のストックホルムオリンピックを見るために、人々が劇場に集まるシーンがあった。
遠い異国で開催されたオリンピックの様子を日本に伝えたのは公式記録映画だったのだ。テレビが一般家庭に普及する以前、映画は世界の出来事を映像で伝える貴重なメディアであり、オリンピックも人気コンテンツのひとつ。
世界的なイベントということあり、テレビ普及後も多くのオリンピック大会で公式記録映画がつくられ、2020年の東京五輪でも製作が決定している。

スポーツ映像の歴史を変えたのは、ヒトラー!?

そんなオリンピックの記録映画だが、歴代の作品のなかには単なる記録映画の枠を超え、その芸術性が高く評価されている作品もある。
記録映画『オリンピア』
1936年に開催されたベルリンオリンピックの記録映画『オリンピア』。
まずは1936年、ドイツで開催されたベルリンオリンピックの記録映画『オリンピア』(1938年公開)。日本では『民族の祭典』『美の祭典』と2つの作品に分けて公開された。
当時としては破格のスケールとなる40台にもおよぶカメラを用いて、競技をさまざまなアングルから撮影。それまで見たこともない斬新なスポーツ映像のカットは、現在のスポーツ中継のルーツにも見える斬新さと映像美を生み出し、アスリートの肉体美、スポーツの魅力を人々に伝えた。
実はその女性監督であるレニ・リーフェンシュタールは、競技終了後に撮影した再現シーンなども加えたため、『オリンピア』は厳密には記録映画、ドキュメンタリーとは言えない点もある。だが、例えば競技が夜にまで及んだため、当時の技術やフィルムでは映像に残せなかった棒高跳びの再現フィルムは、暗闇から選手が現れてバーに向かうシーンが劇的かつ神秘的。勝敗が決する「間」の表現も工夫されており、スポーツ映像への新たなアプローチを示したことは間違いない。
『オリンピア』の棒高跳びのシーン。暗闇から劇的に選手が現れる。
 このように高く評価されている『オリンピア』だが、予算や機器の面で製作をバックアップしたのはナチス・ドイツ。アドルフ・ヒトラーであり、ヒトラー自体も作中に登場する。そう、この映画はナチス賛美のプロパガンダという負の面も背負っているのだ。その点では批判の的にもなり、レニ・リーフェンシュタールも、第二次世界大戦後はナチス協力者として、実質的には映画界から去るかたちとなった。ただ、映像美など芸術面の評価は今も高く、オリンピックの公式記録映画の最高傑作に挙げる人も少なくない。
 

記録か? 芸術か? 物議を醸した市川 崑の『東京オリンピック』

このように記録映画の歴史を変えた『オリンピア』だが、それに勝るとも劣らない評価を得ているのが、1964年の東京オリンピックの公式記録映画『東京オリンピック』だ。総監督を務めたのは映画『おとうと』、テレビドラマ『木枯らし紋次郎』など数多くの作品を手掛けた市川 崑。脚本には和田夏十、谷川俊太郎、白坂依志夫が名を連ねている。
『東京オリンピック』が歴史に残る作品となった理由は、『オリンピア』同様、当時の最新技術を用いて撮影された、見たこともないような映像美と大胆な演出。例えば冒頭にオリンピックの競技場建設のため壊される東京の街のシーンをもってくる批評性は、作品としてはうならされるが、公式記録映画としては異例だろう。そのためか、完成後は「『東京オリンピック』は記録映画か芸術作品か」という論争も起きたほどだ。そんな話題性も手伝って『東京オリンピック』は当時の国内興業記録を塗り替えるほどのヒットを記録した。
ともあれ、こうした点を抜きにしても『東京オリンピック』の映像は実に美しい。多彩な選手たちの表情、圧倒的な肉体の動きや、試合の緊迫感の表現など、現在、我々が目にするスポーツ・ドキュメンタリーの撮影技法や演出に与えた影響の大きさが随所にうかがえる。
また、スタート前の選手たちの不安にスポットを当てた演出や、当時、国家として産声をあげたばかりで、オリンピック初参加となるアフリカのチャドからやってきた若者を追うミニ・ドキュメント、動きや戦いの激しさを伝えるような、選手のゼッケンにフォーカスする砲丸投げのパートなどは、単なる勝敗の結果や勝者の伝達だけではないスポーツの魅力を表現。1980年代以降に花開く日本のスポーツ・ノンフィクション文学を20年も先取りしていた感もある。
そう考えると、『東京オリンピック』はある意味「早すぎた」前衛作品ともいえ、前述のような論争が起きるのも当然だったのかもしれない。
『東京オリンピック 【東宝DVD名作セレクション】』
現在もDVDで鑑賞できる『東京オリンピック【東宝DVD名作セレクション】』が好評発売中だ。2500円(発売・販売:東宝)。

 

監督は河瀬直美。期待高まる東京 2020

そして、こうしたオリンピックの公式記録映画の歴史を振り返ると、期待せずにいられないのが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックである。
というのも、監督を務めるのは河瀬直美。「殯(もがり)」という日本古来の葬儀儀礼をモチーフに人間の生死を描いた『殯の森』でカンヌ映画祭グランプリを受賞。その後も『2つ目の窓』『あん』『光』といった話題作を発表し続けている女性監督だ。
過去の作品を踏まえて考えれば、単なる記録映画にとどまるわけがない。
ちなみに、河瀬監督自身もバスケットボール選手として国体出場歴がある元アスリート、本人も監督就任にあたり「再びスポーツと向き合うのは運命かもしれない」と語っている。完成予定はオリンピック終了後の2021年春。その後国内外で公開される。
自分の目で観る東京五輪も楽しみだが、この監督の目を通した“観戦”も、また楽しみで仕方がない。
 
田澤健一郎=文


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