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しかも「スノーボードが本当にうまいのは、結局誰なのか決めよう」という東野氏の素朴な発想を基に、非常にユニークな種目設計がされている。
スノーボードマスターズの昨年の様子。ジャンプ台を含むコースは、スタッフが手弁当で作った(写真:Yoshifumi Shimizu)
スノーボードといえば空中を高く舞うハーフパイプが連想されがち。だがマスターズでは滑走タイムを競う「バンクドスラローム」と、滑りの美しさと空中技を比べる「フリーライディング+ジャンプ」の2種目で総合力を採点する。
ハーフパイプは若者が有利だが、この種目設計ならベテランも力量を発揮でき、高額賞金獲得の目がある。スノーボード・ジャーナリストの野上大介氏は「トップライダーが目指す大会が日本から消えてしまった中、東野さんの大会が若い五輪選手とレジェンド的なベテランが真っ向から競う場として定着してほしい」と期待を寄せている。スノーボード界が大注目する大会を創設した真意を東野氏が赤裸々に語った。

スノーボードに恩返しをしたかった

――スノーボードが趣味だとは過去の著作でも触れていますが、本格的な大会までつくったとなると、もはや趣味の域を超えています。なぜ大会を創設したのですか。
スノーボードをしたおかげで、僕にはいろいろな出会いがありました。手に入れたものもたくさんあります。今の自分が存在する理由の8割方は、スノーボードがもたらしてくれたものだとすら思っています。
スノーボードを一生懸命やっている人たちに目を向けると、かつては彼らが活躍できるような華々しい大会があったのに、今ではすっかり少なくなっている。それなら、そこに僕が恩返ししようと思ったわけです。
――自分の8割がスノーボードのおかげ、とまで言うとは驚きです。どういう恩なのですか?
「東野さんはあんなにいろんな世界について、よく書けるものですね」ってしばしば言われます。なぜ書けるのか。それはさまざまな出会いを通して新しい世界に触れられたからにほかなりません。そしてそこに、スノーボードが欠かせないのです。今まで自分が知っていたことと、スノーボードをきっかけに知ったこと、つながった人間関係というのが化学反応を起こしているのです。
幸いなことに、僕はこれまでに90冊以上の小説を書くことができました。ここ十数年に限っても、コンスタントに新作を書けています。それはほかならぬスノーボードの刺激があったからだと感謝しています。
スノーボードを題材として扱った小説だけでも4冊あり、日本国内に限っても合計300万部ぐらい売れました。映画やドラマにもなりました。これだけでももう十分にありがたくて、恩返しするのに十分に値します。


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