>連載「37.5歳の人生スナップ」を読む都市部で働く人にとって、職場の近く、またはそう遠くない郊外での生活を選択することは当たり前。会社に近いという理由だけで、特に思い入れもない地域に長年暮らしているということは、ままある話だろう。
しかし、もしなんの制約も考えず、日本中どこでも好きな場所で暮らしていい、理想の生活ができる場所に移住していいとなったら……そう考えたとき、増田茂樹さん(35歳)の頭に真っ先に浮かんだのは祖父母の暮らす小さな離島だった。
「毎朝の日課は、家の近くの浜辺やミカン畑を愛犬と散歩すること。散歩を終えたら朝食をとり、珈琲を持って“仕事部屋”へ。会社は裁量労働制なので特に時間は決まっていないのですが、だいたい9時から10時には業務を始めるようにしています」。
瀬戸内海、愛媛県のしまなみ海道沿いに位置する離島・大三島(おおみしま)で、エンジニアである増田さんは妻と生後8カ月の娘、そして愛犬とともに生活している。正社員でありながら仕事は完全リモートだ。業務はすべてペーパーレスで、クラウド上で共有しており、他社員とのコミュニケーションはチャットやビデオ会議を使用。通勤時間がないぶん幼い娘と長く時間を共にできるのは、リモート勤務ならではの魅力だろう。
「毎日11時からチームの打ち合わせをオンラインで行って昼ごはん。ごはんは基本的にすべて自炊です。飲食店は島の反対側にしかなくて車で片道15分以上かかるので……。18時には娘をお風呂に入れるという任務があって、チームの共有カレンダーにも入れています(笑)」。
増田さんが大三島に移住したのは4年前。人口5000人前後という大三島には小さなスーパーが3軒、コンビニもたった2軒しかない。増田さんは限界集落とまで言われた過疎化・高齢化がすすむ島でリモート勤務を可能にし、さらに副業で民宿の経営まで行っているという。
海辺の街で、“理想の暮らし”を手に入れるまでのストーリーに迫った。
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