今回の看板娘は春香さん(24歳)。出身は茨城県高萩市で、高校卒業後に上京。観光系の専門学校に入学した。ここは、当時アルバイトをしていた店なのだ。
「旅行が好きなのでそういう学校に入ったんですが、よく考えたら商品として売るより自分で旅行するほうが楽しいということに気付きました」
卒業はしたが旅行会社への道は選ばず、有名なアパレルブランドに就職。立川のデパートで販売員として働き始めた。
「自分に合っていたみたいで、西東京エリアで売り上げがずっと1位でした。お客さんの雰囲気を読み取って、心の中に入り込んでいくスキルは、元々ここのバイトで習得したんですよ」
話しかけるタイミングは「店内をぐるりと回った後でバッグを手に取って内部の機能をチェックし始めたとき」。なるほど、店員の役割を心得ている。
迷った末に、オススメだという「和牛ハラミステーキ鉄板焼」(980円)を注文。
アパレルブランドを退職した後は、いくつかの仕事を経て最終的にはこの居酒屋に戻ってきた。現在はフル勤務で働いている。
「『AKICHI』という店名は空き地のように人が集まる場所にしたいから。その名の通り、店員もお客さんもみんな仲がいいし、スタッフとしても居心地が最高です」
ここで、カウンターの客から「春香もなんか飲む?」と声がかかった。「いいんですか? じゃあビールを」「山崎のハイボールが好きなんじゃないの?」「ちょっと高いから。遠慮なくいただきます(笑)」。
「こないだ金沢に行ってきたんですよ。NCTっていうK-POPグループのライブを観るために。あ、お土産があるんだった」
「高級魚ののどぐろ感はあまりないんですが」と言いながら取り出したのは「のどぐろせんべい」。
先ほど店員同士も仲がいいと書いたが、全員で行く旅行も恒例行事だ。
「5年ぐらい前に3泊4日のグアム旅行に行ったんですが、出発時に台風で飛行機が飛ばなくて成田空港泊。みんな帰ったりホテルに戻ったりしたのに、私たちだけ近くのコンビニでお酒を買い込んでひたすら飲んでいました」
無人の空港を満喫できる体験はなかなかなさそうだ。さらに、帰国時もやはり台風が直撃。延泊を余儀なくされ、最終的には5泊6日の旅となる。
春香さんに得意料理も聞いてみた。
「時々しか作りませんが、餃子とか韓国料理でしょうか。こないだ作ったビビンパは超美味しかった」
気になるのは、そんなに長い爪で料理に支障はないのかということ。
「料理も水仕事も全然問題ないですよ。え、これも撮るんですか? 伸びすぎてるから恥ずかしい(笑)」
さて、満を持してカウンターの皆さんに看板娘の評価を聞いてみよう。
「飲み会に呼んでこっちの友達を紹介すると、初対面とは思えないぐらい打ち解けてくれるのでラク」
「山崎のハイボールを飲みたいときは、そういうオーラを出してくるのが面白い」
話を聞いていて思ったのは、春香さんの声のトーンや喋るスピードが非常に心地いいのだ。それは本人も自覚していて、「接客業を続けるうちに本能的にたどり着いた境地」だという。
さて、そろそろお会計をしよう。読者へのメッセージもお願いします。
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