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2019.02.23

ライフ

失恋を経て、路上心理カウンセラーへ。とある書家が迎えた転機

OCEANS’s PEOPLE ―第二の人生を歩む男たち―
人生の道筋は1本ではない。志半ばで挫折したり、やりたいことを見つけたり。これまで歩んできた仕事を捨て、新たな活路を見いだした男たちの、志と背景、努力と苦悩の物語に耳を傾けよう。
小林龍人のインタビューを最初から読む

小林龍人は墨筆士である。書を生業としている。だが、前回は首都圏に棲息するごく普通の兄ちゃんの青春譚に終始した。このインタビューにおいて、小林龍人の書は、いまだ小学生のときに習っていた習字で止まっている。意に染まない仕事を、遊びで紛らわせる日々が続いている。

だが今回いよいよ彼は立つ。彼自身が己のあり方を強く見直す契機に見舞われるのだ。失恋である。事件は小林青年、28歳の12月に起きる。
 

人前で、なかば“公開処刑”のように失恋



「そのときは、確かに彼女と少し距離を置いてる状態でした」。

小林龍人は、マーケティング会社に勤めるサラリーマン。情熱を傾けていたのは仕事以外の時間だった。アフター5の飲みと週末の波乗り、冬場のスノーボード。仕事はあくまでも、そうした楽しみを支えるための手段だった。

彼女に出会ったのは、大学時代から通っていた池袋のサーフ&スノーショップ。初めて見かけたときにおしゃれだなと思った。それに何しろサーフィンとスノーボードという趣味が間違いなく合致しているのだ。小林青年、それまで以上のモチベーションでショップに通い、いつしかふたりは付き合うようになった。そして1年ほどが過ぎた時のこと。

「彼女が距離を置きたいと言い出したんです。彼女、体調を崩してメンタルも落ち込んでいたんで、僕もOKしました。でもショップには通っていたし、彼女と別れたつもりではなかったんです」。

そんな中、ショップの忘年会が開かれた。いい感じに飲んだ帰りがけ、「もうちょっと飲もうよ」と店長に引き止められた。このとき、帰っていれば、もしかしたら墨筆士・小林龍人は生まれていなかったかもしれない。

「エンディングな感じで、スタッフのみんながお客さんへの感謝を述べたり、普段の本音を言うみたいな流れにになったんです。そこで店長が、僕の彼女に“オマエもなんか言うことあるんじゃないの?”って促しました。そしたら、違うスタッフの男が“オレ、彼女と付き合ってまーす”って、割って入ったんです。で、彼女のほうも“ハイ、彼と付き合ってます”って……身内の恋愛のカミングアウトって超盛り上がりますよね(笑)。みんな酔っ払ってるし、自然と“キース、キース”ってキスコールですよ。僕はさすがに見ていられませんでしたけど、やっちゃったっぽいんですよね」。

狭山までの終電はもはやなく、手近な漫画喫茶に小林は逃げ込んだ。かなり飲んでいたにも関わらず、まったく眠れなかったという。男の存在は薄々感じていた。でも完全に別れたつもりはなかったし、まだ自分としては好きだったし。それがなんだかうやむやのうちに新しい男とのキスにまで至ってしまった。眠れぬままオーバーヒートしそうな脳みそに、ある決意だけがポンと浮かび上がった。

「オレ、圧倒的に強い男になりたい」。



とにかく強い男になることができたなら、そんな細かい事情なんてどうでもいいのである。全部を己の強さで凌駕できるような存在になりたい、そう小林は思った。


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