金魚鉢のようなグラスの中で凍ったレモンが揺れる。フードは福島県産牛のお尻部分、希少な「イチボ」を注文した。
美味しいお酒と美味しい食事に看板娘が加われば夜の酒場は完結する。今回の看板娘は医療系の専門学校に通う美羽さん(19歳)。
「学校では臨床工学を勉強しています。卒業後は臨床工学技士になって病院で働きたいですね」。
趣味はライブハウス通い。4年ほど前から「Halo at 四畳半」というバンドを追いかけており、昨年10月のメジャーデビューを自分のことのように喜んでいた。
「あ、自分でも『【KAME-BOON】』っていうバンドをやってるんですよ。パートはギターボーカル。バンド名の由来はベースの子が『亀』が付く名前なので」。
「実家は千葉の田舎なんですが、お父さんはわざわざライブを見にきてくれるし、たまにLINEも送られてきます。そういえば、私の恋愛遍歴も全部知ってる(笑)」。
千葉では少々やんちゃ(?)な中学校に通っていたそうで、「今考えるとけっこう荒れてましたね。授業中に先生の話を聞かずに、みんなでお菓子を食べたりしていたので」。
男性スタッフの入谷さんに美羽さんの印象を聞いてみた。
「人懐っこいから誰からも愛されるし、一方で仕事への責任感もすごい」。
ここで、美羽さんが申し訳なさそうに口を開く。
「じつは、昨日お皿を3枚割っちゃったんです。グラスはたまに割るけど、お皿は初めて。楽しみにしていたまかないも食べずに帰るほどショックでした」。
そんな美羽さんが独自に編み出した立ち直り法が面白かった。
「納豆が大好きなんですけど、それをひたすらかき混ぜるんです。かき混ぜてかき混ぜて、心が無になったらさっと食べて寝ます」。
好きな動物も聞いてみようか。すると美羽さん、入谷さんのほうを向いていたずらっぽく笑いながら言う。
「好きな動物知ってますよね?」
「え?」
「私の携帯充電器に付いてるじゃないですか」
「ああ、付いてたな~。何だっけー(笑)」
入谷さんを困らせたクイズの正解はサメでした。
「去年、沖縄の美ら海水族館に行ったときもサメばっかり眺めていました。これはジンベイザメですね。なんか惹かれます。あの堂々として強い感じが好きなんだと思います」。
「飼えるものなら飼いたいけど、小さな水槽に入れるのはかわいそう」。そんなコメントからも本気のサメ愛が伝わってきた。
なお、この日は新人の高校生バイトも働いていた。よく見ていると美羽さん、仕事の合間を縫って丁寧に教えている。
スタッフも常連さんもいい人ばかり。とくにお客さんが自分のことを覚えていてくれるのが嬉しいという。先日も「あ、美羽ちゃんだよね」って声をかけてくれたそうだ。
逆もある。
「ときおりいらっしゃるお客様で、『なみなみグラスワイン』をいつも頼まれる女性がいるんです。先日いらっしゃったときに『今日はいつものにしますか?』と伺ったら、『あ、覚えててくれたんだ』と大いに喜んでくれました」。
静かに感動しつつ、天井を見上げる。
さて、今回も大満足でお会計。ここでサプライズが待っていた。2人で5000円以下とはお安いが……。
「珍しいですか? これ、簡単に消せるんですよ」。
最後に読者へのメッセージをお願いしますね。
【取材協力】肉酒場ブラチョーラ練馬店住所:東京都練馬区豊玉北5-32-1 練馬吉永ビルディング1-3F電話番号:03-6886-7302
www.facebook.com/nikunerima/
石原たきび=取材・文