PREMIUM BRAND × DAILY STYLE
SAINT LAURENT サンローラン
2017年春夏シーズンからクリエイティブ・ディレクターを務めるアンソニー・ヴァカレロが、今季、初のメンズ単独ショーをNYで開催。テーマはオーシャンズ世代に刺さる「’70年代」。言わずと知れたパリの頂上メゾンが、我々のデイリースタイルにグッと近い存在となった。
アメリカの不良カルチャーを思わせるロックな装いには、ブーツが断然お似合いだ。ブラックデニムに合わせたのはジョッパータイプで、ソールには既に履き込んだようなダメージ加工。それに対してアッパーは、リザード、オーストリッチ、クロコダイルといったエキゾチックレザーをパッチワークした超贅沢仕様だ。物の価値がわかる奴にだけ許された「HIGH&LOW」の遊び。この一足で満喫しようじゃないの。
Tシャツ&デニムに革ジャンという三点セットをクールに着こなせる男は格好いい。これは理屈抜き。で、それを簡単に実現してくれるのがサンローラン。赤と黒のダイヤ柄がアイキャッチのレザージャケットは、洗いをかけることでヴィンテージレザーのようなバリッとした質感まで再現し、絶妙な表情を作り上げている。シンプルな装いがクールにキマる理屈はちゃんとある。
レディスでのキャリアも豊富なアンソニー・ヴァカレロが指揮を執るメンズコレクションは、昨今のサンローランが築き上げてきた“男らしい世界”に女性的な繊細さを加えることで新たな魅力を放っている。黒がベースのカラーパレットに挿したサーモンピンクのヴァージンウール・ジャケットや、ドレープが美しい上質なシルクシャツ。大人の男が好む「マイルドでワイルド」な世界に引き込まれる。
カントリー、サファリ、ウエスタンなどのエッセンスを巧みにミックスし、見事にモードへと昇華させた今季。その魅力を端的に表現しているのが、このブラックジャケットじゃあるまいか。クレセントポケットに剣玉縁、随所のレザーの切り替え。派手さはなくとも強い存在感を放つ一着は、華やかなレオパード柄のシースルーシャツとも調和する。この懐の深さがファッションを楽しくし、気分を高揚させるのだ。
サンローランが2019SSのコレクションの舞台に選んだのはNYだった。それに伴い登場するかの地に着想を得たアイテムの中で特に注目したいのが「マンハッタン」という名のバッグ。カーフレザーの光沢とゴールドパーツが、モダンなスクエアフォルムとともにあらゆるスタイルをエレガントに演出してくれる。その汎用性の高さは、すべてを受け入れるメトロポリスの如く、と言っても過言ではない。
男の服装にとって大切なのは、アイデンティティがあるかどうか。それがなきゃ薄っぺらいただのお洒落野郎になってしまう。猫も杓子もビッグシルエットな今のトレンドへのアンチテーゼとも見て取れるタイトなショートトレンチを、デニムシャツの上から無造作に。ある種不変の格好をアップデートしているのはソフトなコットンツイルで、こいつが軽量で肌触りもいいもんだから“お決まり”がまたヤメられなくなってしまうのだ。
清水将之(mili)=写真 菊池陽之介=スタイリング シタトリユウキ(UMITOS)=ヘアメイク