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2019.02.03

時計

時計業界の天頂で輝く「ゼニス」の150年続く技術革新とは

150年を超える歴史を持つスイスの老舗ウォッチブランド、ゼニス。高精度クロノグラフムーブメント「エル・プリメロ」をはじめとして、数々の傑作ムーブメントを送り出してきたブランドが打ち出す次の一手とは。
ゼニスとは?
1865年、時計職人ジョルジュ・ファーブル=ジャコにより、スイス西部のル・ロックルにて設立。懐中時計、搭載計器、腕時計の計時に関して2333もの受賞記録を持ち、ムーブメントから一貫生産を行うマニュファクチュールとして知られている。1969年に自動巻き一体型クロノグラフムーブメント「エル・プリメロ」を発表。毎時3万6000回の高振動により10分の1秒単位の計測を実現した。ゼニスのモノ作りを象徴するムーブメントといえる。

「北極星のように時計業界を導く存在でありたい」

ゼニスCEO ジュリアン・トルナーレ 氏
CEO ジュリアン・トルナーレ氏 1972年、スイス・ジュネーブ生まれ。2000年、ヴァシュロン・コンスタンタンのスイスマーケット責任者を経て、北米マーケットの社長に。’09〜’11年はインターナショナルセールスを指揮。その後’17年4月までマネージング・ディレクターとしてアジア・パシフィック地域の同ブランドの発展に尽力。’17年5月、ゼニスのCEOに就任。マーケットの拡大とマーケティング戦略の活性化に努めている。スキーやテニスを愛するスポーツマンで、2男1女の父。
「歴史や遺産の上にあぐらをかくことなく、常に未来を切り拓いてきたのがゼニスというブランドです」。開口一番、ジュリアン・トルナーレ氏はこう言い切った。そして続けた。「培ってきた歴史の上にしっかりと立ち、クラフト(手作り)の感覚を忘れずに未来を創造しなければなりません」。
ゼニスが歴史ある名門ウォッチブランドであることは、時計ファンならば誰もが知るところ。事実、17世紀から続くスイス時計産業界において数々の偉業を成し遂げてきた。そのひとつが「マニュファクチュール」(自社一貫生産)という製造体制だ。現在は自社ムーブメントを製造する時計メーカーのことを指す言葉でもあるが、その元祖がゼニスなのである。
「創業者ジョルジュ・ファーブル=ジャコには先見の明がありました。部品、文字盤、ケースなど、それぞれの工房で職人が分業していた従来の時計作りをひとつの敷地に集め、一貫した生産プロセスを構築しました。産業革命以前に、時計業界に工業化というイノベーションをもたらしたのです」。
これが、ゼニスが世界初のマニュファクチュールといわれる所以。現在18棟の建物からなるル・ロックルの生産拠点はひとつの村のように機能し、ゼニスの発展を支え続けている。その発展に大きく寄与したのが、今年誕生50周年を迎える自動巻きクロノグラフムーブメント「エル・プリメロ」だ。
「精度の追求は、我々機械式時計作りに携わる者の大きな使命です。10分の1秒を計測できる高精度ムーブメント『エル・プリメロ』は、当時画期的な存在でした。ただ、最初に“あぐらをかくことなく”と申し上げたとおり、その先を目指すのがゼニス。2017年に発表したムーブメント『エル・プリメロ 9004』では、クロノグラフ針は1秒でダイヤルを1周し、100分の1秒の計測を可能にしました」。
遺産を受け継ぎ進化させるという意味では同じく一昨年、限定10本で作られた「デファイ ラボ」(※1)の存在も記憶に新しい。振り子の役割を果たすテンワやヒゲゼンマイなどを持たず、それらに代替する調速機構のすべてを集約した、一体構造のシリシウム製オシレーター(発振器)を搭載。構造上、部品同士の接触がないため、機械式時計の宿命であるパーツの摩耗からも解放された。計時の精度に加えメンテナンス性を高めている点が革新的で、従来の機械式時計の調速システムを根本から変える、未来を担う存在となるだろう。
「『デファイ ラボ』の完成を知った私は、模造を懸念しパテントの取得を急ぐべきだと開発担当者に告げました。が、彼は泰然と“焦ることはありません”と言うのです。理由をたずねると“たとえ素材や製法を知り得ても、再現できるのはゼニスだけですから”。手前味噌ですが、我が社の持つ優れた発想力と高い技術を誇らしく思いました」。
最後に、ゼニスの今後を問うた。「腕時計の機能をスマートフォンで代替する現代ですが、臆することなく技術を進歩させなければなりません。それが時計作りに携わる我々のミッションであり、宿命です。繰り返しますが、歴史を重んじ新たな未来をクラフトしていきたい。“天頂”を意味する社名のとおり、時計業界を導く存在として北極星のように輝き続けたいのです」。
※1 デファイ ラボ
その10本が即完売となった、ゼニスの技術の粋が込められた腕時計。仕様変更した同様のムーブメントを積む量産型モデルが、装いも新たに近々登場するとのこと。待ち遠しいばかりだ。
 
髙村将司=文 加瀬友重=編集


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