徐々に掴んだ商売勘。ゆくゆくは……本格的な出店から間もなく3年。当初はあまりの売れなさに愕然としたこともあったそうだが、お客さんとコミュニケーションをとりながら、お店を少しずつアップデート。徐々に売り上げは安定してきた。
「商売し始めると色々わかるものなんですよね。“こういうこと聞かれるよな”とか“料理を出すのを待ってるとき、目線はこの辺か”とか。それで、お客さんの目線が行きがちな場所にコシャリの説明とか、自分がエジプトで修行した経緯とか掲示したりして。それもちょっとだけ工夫してるんですよ。そこの説明だけで完結してしまうと、コミュニケーションのきっかけがなくなるじゃないですか。だから、あえて全部わかるようには書いていない。できる限りお話ししたいですからね」。
コシャリの味も、最初に再現した時からずいぶん変わってきているという。
「最初は“コシャリとは何か”をまず知ってもらうために、本場の本物を再現して提供していました。開業後は、可能な限りお客さんとお話をして“なんでうちのコシャリを食べてくれてるのか”“どういうところに魅力があるのか”を聞き取ってきたんです。データがだいぶ蓄積されたので、ニーズに合ったコシャリを商品化していい……中国のラーメンと日本のラーメン、インドのカレーと日本のカレー、本場の味とは違っていても日本で独自進化して美味しくなってますよね? そういう定着の道もあるかもしれない。僕の目標はあくまでもコシャリを日本に広めるということなんで、そのために何をしたらいいかというのが基本スタンスですね」。
そんな須永さんのアクションは、キッチンカーの枠内にとどまらない。
「コシャリを知ってもらうには、まずエジプトを知ってもらうことだと思っていて。エジプトってピラミッドとか砂漠ぐらいのイメージで、全然知らないでしょ? それでエジプト大使館に通ったりもしましたよ。エジプトのことを日本にもっと知ってもらいましょうよ! って企画書書いて提案して。半年がかりで去年の秋、代々木公園でエジプト大使館 文化・教育・科学局が後援についてくれて、エジプトフェスを開催することができました。コシャリ屋さんにまつわるいちばん大きな出来事でしたね」。
ほかにも映画『キング・オブ・エジプト』、Kバレエカンパニーのバレエ『クレオパトラ』、アニメ『神々の記』など、エジプト関連コンテンツとのコラボも積極的に行なっている。
「とにかく動きを止めたらアカンと思っています。僕だけじゃなく、誰かと一緒にやらせてもらって、大きな力を利用させてもらって広がっていきたいです。その際、先方にどんなメリットがあるかをちゃんと提示するのは当然なんで、ホント毎日考え続けてますよ。……思えば、10年サラリーマンやったのは大きかったですねー」。
日本にコシャリを知らしめて定着させる。それは今の仕事における最大の目標だが、ゴールではない。コシャリはあくまでも“きっかけ”なのだ。
「世界はまだまだ広いぞということを知ってもらいたいんですね。ある国の人が全員知っているものを日本人は誰も知らない。そんなことが世界にはまだまだいっぱいある。それに気づくことができて初めて、世界基準になれると思うんですね。ものすごく大げさですけど、世界の文化を受け入れ、世界と対等に戦える日本人がいっぱい増えるといいなと思っています」。
【Profile】 須永司 1983年生まれ。同志社大学卒業後、電子部品メーカーに勤務。2016年に「エジプトめし コシャリ屋さん」を開業。キッチンカー1台からコシャリの日本への定着を目論む。 2019年1月現在の出店スケジュールは…… 月曜日:大崎ガーデンタワー 火曜日:上智大学 四ツ谷キャンパス 水曜日:城山トラストタワー 木曜日:東京大学本郷キャンパス 金曜日:東銀座新橋演舞場
エジプトめし コシャリ屋さん http://koshary-yasan.hungry.jp Mellow https://www.mellow.jp稲田 平=撮影 武田篤典=取材・文