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――そんなにお好きだと、クラシックCDで家がいっぱいなのでは……。

6畳が一部屋埋まってしまっています。もう部屋の奥からは持ち出せません。段ボールにどんどん積みあがっちゃって、何万枚かになっています。去年は3回くらい崩落して、ドアが開かなくなってえらい目に遭いました。
クラシック愛を語り出したら止まらない北村さん(写真:梅谷秀司)
僕だけでなく、タワレコにはこういう人が多いと思うんですけど、だいたい同居している人から怒られるんです。整理したい気持ちはあるんですけど、いつか資料になるかもしれない、将来聴きたくなる瞬間があるかもしれないと思うと大胆に処分できないんですよ。
――金額的にも結構いってしまいそうですが、ちなみに1回あたりの出費はいったいどれほどに……。
まちまちですが、多いときには数万円になります。最近だと200枚のセットを買いました。カラヤンが指揮した録音のCD集です。すでに持っているんですけど、クラシックって音がよくなったとかいって何回も再販するんですよ。少しでもいい音で聴きたくて買っちゃうんです。
――カラヤンは有名ですけど、さすがに200枚セットなんて誰が買うんだよって思ってました(笑)。10万円以上しますよね。それにしても、同じ録音を音がよくなったから、また買うという発想はありませんでした。どれくらいの時間、クラシックを聴いているんですか。
休日の7〜8割は聴いています。実はオーディオも好きでして。こちらも結構、投資しちゃってます。
スピーカーは、中学2年生のときに父親が同僚のオーディオマニアから買ってきたものをずっと使っています。とことんやらないと気が済まないので、買うだけではなくて、セッティングを1ミリ単位で調整したり。妻が置いたと思うんですけど、洗濯ばさみなんかがスピーカーの上に置いてあったら、速攻で取り除きます。
アースを出したり、電源コードに15万円かけちゃったり。やっぱり聴くと音がいいんですよね。オーディオがいいと、ますますいろんなCDを聴きたくなってと、ループしちゃいます。
――ああ、オーディオはヤバいですね。
北海道にいたころは、車で温泉に行ったりと、車も趣味でした。根が凝り性なので、乗る前には必ず空気圧を測ったりしていました。乗り味が変わるので。いや、別に神経質なわけではないのですが。コンディションにこだわるんです。
 

同僚たちと目的を共有できる幸せ

――ずばり、クラシック音楽の魅力って何でしょう。
趣味として終わりがないことでしょうか。楽譜があるので同じ曲なんですけれど、演奏によって全然違うんです。なんでこんなに違うんだろうってなります。解釈の自由があるからなんですが、やっている人は全員自分の演奏が正しいと思ってやっている。これが面白いところです。
――“好き”を仕事にしていると、どんなことに幸せを感じますか。
好きな音楽に携われていることに幸せを感じます。あとは仲間ですね。タワレコで働く人はみんな音楽ファンなんです。ジャンルは違っても、好きな音楽のよさを伝えたい、多くの人に楽しんでほしいという気持ちは共通しているので、目的を共有できることに幸せを感じます。
あとは会社の環境なのかもしれませんが、妥協なく仕事ができていることがいいですね。
インタビュー中に時折、北村さんが「大丈夫ですか? 引いてますか?」と気にしていたことが印象的だった。いやいや、まったく引いてなどおりません。
作曲家の特徴や指揮者ごとの演奏の違いなど、膨大な音楽知識に圧倒されるものとは予想していたが、その説明は聞く側にも心地よく、録音技術や音質をよくする技術にまで北村さんの音楽愛が広がっていたことには驚きを感じた。
タワレコ限定版CDは、どの録音を選ぶかだけではなく、ジャケットをどうするか、音質をどうするか、解説を誰に頼むかということにまでこだわっているそうだ。何の気なしに手にしていたCDの向こうに、マニアたちの姿の見える気がした。
高橋 ホイコ:ライター
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記事提供:東洋経済ONLINE


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