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2019.01.16

ファッション

「ジル・サンダーのBAIA(バイア)」ミニマルだけどミニマルじゃない究極の白シャツ

ルーク夫妻が引き継いだ新星ジル・サンダー

創業デザイナーの後を引き継ぐのは難しい。とくに確固たるイメージが確立しているブランドにおいては。
ブランドの軸をブラすことなく、新しいクリエーションを加えていく作業は、想像を絶するくらい困難なことなのだと思う。2018年春夏シーズンからジル・サンダーのクリエイティブ・ディレクターに就任したルーク・メイヤー、ルーシー・メイヤー夫妻は、その難題を現時点で完璧にクリアしている。
シャツ4万7000円/ジル・サンダー(オンワードグローバルファッション 0120-919-256)
ルークは、シュプリームのクリエイティブ・ディレクターを経て、2014年にOAMCを立ち上げた。ストリートを完璧に把握したデザイナーによる、ストリートとラグジュアリーの隙間を突いたクリエーションは、とびっきり新鮮だった。2016年秋冬シーズンの初めてのパリでのインスタレーションは、自分にとっても衝撃的で、ミリタリーをこんなにも上品かつ上質に表現できるデザイナーに出会ったのは初めてのことだった。職人気質の日本人デザイナー以上に、細部を突き詰めていることにも驚かされた。
一方のルーシーは、マーク・ジェイコブス時代のルイ・ヴィトン、ニコラ・ジェスキエール時代のバレンシアガを経験。ラフ・シモンズ時代のディオールでレディスのオートクチュールとレディ・トゥ・ウェアのヘッドデザイナーを務め、ラフの退任後はメゾンの共同クリエイティブ・ディレクターに就任した。これまでは知る人ぞ知る存在だったが、モード畑において錚々たるキャリアを築いてきた女性である。
「2人の感性はまったく違う」とインタビューで答えているように、ルーク夫妻によるジル・サンダーは、双方の感性が上手い具合に融合し、またぶつかりあっていて、理想的なブランドの引き継ぎ方を体現している。ブランドを壊さず、かといって保守的すぎず、絶妙のバランスでブランドを前進させているように見えるのだ。
 

着る人を建築家に見せる魔法のシャツ


さて。ジル・サンダーといえば、何はさておき白シャツである。ジル本人のアイコンであり、ブランドを象徴するアイテムでもある。2人はそのことをよくわかっているようで、2018年の春には「7 DAYS SHIRT」という曜日ごとにシルエットやディテールが異なる白シャツを発売した。こちらもオススメなのだが、これまでのジル・サンダーの定番の白シャツを、さらに進化させたのが、この潔いまでにシンプルな白シャツ「BAIA(バイア)」だ。
素材は上質なコットン100%で、襟は小さめのレギュラーカラー。オーバーサイズ全盛の昨今ではかなり細身のシルエットだが、パターンが立体的だから窮屈さとは無縁だし、襟とカフは芯なしだから堅苦しくない。

ぱっと見は、ジル本人の時代の白シャツ、ラフ・シモンズ時代の白シャツとほとんど変わらないけれど、それらよりもオッサンとの親和性が高いように感じるのは、きっとどこかにルークのストリートのスパイスが隠れているからなのだろう。
 

購入時に気を付けたいのは、ネックサイズをしっかり合わせること。このシャツは、第1ボタンをしめたほうが、その魅力をより体感できるし、気鋭の建築家にでもなったような気分が味わえるからだ。
以前、トランジットを利用して、ドイツのフランクフルトで開催されていたジル・サンダーの回顧展に立ち寄った。年代別に作品を展示した大規模なもので、ジルの偉大さを改めて体感できる素晴らしい内容だった。観終わったあとに感じたのは、ジル・サンダーはミニマルじゃないということ。いや、もちろんミニマルなんだけど、ミニマルなのに服が強烈に自己主張していて熱を孕んでいたのだ。ジルはただ単にディテールを削ぎ落とした服を作ってきたわけではないのだ、と。
2018年6月にパリで見たルーク夫妻によるジル・サンダーの2019年春夏コレクションは、これまでのシーズンに比べるとずいぶんデザイン要素が増えていた。それは、ジル・サンダーというブランドの本質を良く理解してのこと、なのだと思う。
このシャツは、そんなデザイン要素の強い新生ジル・サンダーと合わせても、着古した古着と合わせてもハマる。ジル本人とルーク夫妻の感性が融合した、ミニマルでミニマルじゃない究極の白シャツなのだ。
 
増田海治郎=文


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