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法律で夫婦と認証されるより、「フェアであること」を重視

とはいえ、法律婚により得られるさまざまな“権利”を放棄することに、全く抵抗がなかったわけではないという。
事実婚では所得税の配偶者控除が受けられず、相続税の税率面でも法律婚の夫婦に比べて不利になる。さらには、住宅ローンを共有名義にできないなど、不都合な点は少なくない。
萌子さん「それに子供が生まれるとなれば、なおさらふたりの意思だけで決められることでもありません。先ほど言ったように、子供への不利益は本当にないのか、また、事実婚とはいえ家族になるわけですから、お互いの両親へも納得のいく説明が必要です。そこで、まずは事実婚のメリットとデメリットを徹底的に調べることにしました」。
晋太朗さん「自分たちで調べるだけでなく、専門家の方のアドバイスも仰ぎました。お話を伺った行政書士の水口尚亮さんは自身も事実婚で子供を育てている、いわば実践者です。
事実婚と一口に言っても、そのやり方はさまざまです。住民票の世帯を同一にするだけの夫婦もいれば、さまざまな契約書を交わして法律婚における夫婦と同等の権利や義務を課すケースもある。水口さんの場合は、民法の規定をふまえた契約書を作成していて、それは責任ある家庭生活を送りたいと考えていた私たちにとって、とても参考になりましたね」。
事実婚でも契約書や遺言書などを作成することで、法律婚に近い権利と義務を持った夫婦関係を作ることはできる。また、住宅ローンや生命保険の引受人に関しても、最近では法律婚・事実婚に関わらず柔軟に対応してくれるケースが増えていることも分かった。
さらに、子供や親族を含めた家族への影響もふまえた結果、「自分たちにとっては、特段のデメリットはない」と判断し、ふたりは最終的に事実婚を決断する。法律による後ろ盾を得ることより、夫婦別姓をはじめとする“フェアな関係”を維持することを選んだ。
また、当初は事実婚に必ずしも積極的ではなかった萌子さんの考え方も、現行の法律婚や事実婚への理解が深まるにつれ変わっていく。
萌子さん「事実婚のプロセスを通じ、結婚制度の成り立ちなどについても学び、改めて深く考えるようになりました。また、同時期にあるスポーツ選手と仕事でお話をする機会があったのですが、彼は自分の名前に誇りを持ち、くじけそうな時は己の名前を復唱することで気持ちを鼓舞しているとおっしゃっていたんです。自分の名前は、自分の存在意義であると。それを聞いたとき、自分が持って生まれた名前って、じつはすごく大事なものなんじゃないかと思うようになったんです。
そう考えると、結婚したからといって姓を変えなければならないのはすごく変だし、それが知らず知らず当たり前になっているのも怖いことだなって」。


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