「キャリアデザイン中毒」と「生き急ぎ」からの脱却
表題の「会社の将来が見えない」と言う若者のうちの一定層は、これまで述べてきた「キャリアデザイン中毒」、つまり、本当は恐れる必要のない、もっと言えばむしろやり過ぎないほうがいいキャリアデザインを、しなければまずいことになるという強迫観念にさらされている方々が、軸の決まらない自分への不安を会社の方針が未確定であることに投影しているのでしょう。
そしてさらに追い討ちをかけるのが、若者特有の「生き急ぎ」。我々オッサン世代は逆に、いつも年末などに「ハッと気づいたら1年経っていた……時間が過ぎるのが早過ぎる……」という感覚が通常なのでピンと来ないかもしれませんが(ほとんど全員がおっしゃるので、オッサンの時間の流れは早いというのは真実なのでしょう)、若者の時間はとてつもなく早く過ぎていきます。これも何らか対処をしなければなりません。
まずは、緩やかに縛ってあげる
これら若者の陥りがちな症状からいかに脱却させるかですが、焦っている彼らに、焦らなくてもいい、自由に試行錯誤すればいいんだといきなり言っても仕方がなく(若者の気持ちがわからない極めて「オッサン的」と思われてしまうでしょう)、まずは肯定から入るべきかと思います。最初は、会社の将来について、ある程度の選択肢や方針を出してあげるべきです。
ただ、曖昧で変化の激しい現代、詳細に個別具体的な方針を打ち出せば出したで、実現できずに結局嘘をつくことになったりします。ですから、いわゆる理念、ビジョン(実現したい社会)・ミッション(どういう事業で行うか)・バリュー(事業を行う上での行動規範)などを整備して「OBライン」(これを超えてはダメという緩やかな縛り)を示してあげると、柵がある中で安心して暴れることができるようになるでしょう。
その上で、自由とオープンマインドの素晴らしさを説く
しかし、本質的な対策は、曖昧で不安で恐ろしい自由、しかし、それでも人間として獲得すべきである自由の価値を、ゆっくりと諭すようにしていくことだと思います。今の現代日本人が空気のように享受できている自由は、先人達が本当の意味で血を流しながら、命を賭けて戦い、獲得してくれたものです。「奴隷の自由」でいたい人にまで強制はしませんし、否定もしませんが、私は今の若者には「別に何をやったって構うことはない」と、自由に生きて欲しいと思います。
自分の今ある価値観にさえ縛られず、自由に生きている人は、会社の方針が曖昧なぐらいで「不安」だとか言いません。むしろ、会社の方針が曖昧なら「じゃあ、俺はこれがやりたいからやらせてくれ」と思うはずです。何も無理に自分から縛られに行く必要はなく、オープンマインドで何に対しても目を開いてチャンスを探すことができるよう、それを支えるのが我々オッサン世代ではないでしょうか。
曽和利光=文株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。